『中年クライシス』
ブログのサブタイトルに使ったこの言葉は、私の好きな作家の一人河合隼雄が1993年に書いた本の題名である。
河合隼雄氏は、臨床心理学者で心理療法家。作家というよりは、心理学の先生だが、数々の文学作品を、心理学的に分析した読み物を多く出している。長らく、京大の教授だったが、現在は文化庁長官を務めている。
「中年というのは、最も意気盛んで安定期に見えて、実は、職場、家族などの多様な問題に直面して、心の危機をはらんだ時期である」というのが、心理学から見た中年の位置付けである。その中年の心の危機を、日本の文学作品から解き明かしたのが、『中年クライシス』という本である。
生まれて、学校に行き、就職し、結婚する。30代は、仕事や子育てに追われるうちに過ぎていく。職場でのゴールも見え始め、子どもも育ち、育児の負担が減ってきたと思い、ふと立ち止まると40代になっている。「自分はこれから、どうすればいいのか?」そこに、中年の心の危機が生じる。人生50年といわれた時代は、考える間もなく、死がやってきたが、人生80年の現在では、その問いに答えを見つけないまま、生き続けることは困難である。そんな中で、中年期の病気や事故は、次の新しい展開への踏み台としての意味も持っているという。
自分の昨年の骨折・入院というのも、一度、立ち止まって、今後を考えろということだったのかもしれないと、最近になって思う。
一方、私の妻も、末っ子が小5になり、昔ほど手がかからなくなって、しきりと、「自分の人生を、子育てと家の片付けだけで終わらせたくない。これから死ぬまで、もっといろいろなことがやりたい。若い頃、もっと勉強しておけば良かった。」と悔やんでいる。(喫茶店計画も、そんな彼女の将来の模索の中から出てきたものだ)
中年の心の危機の時に、支えになるのが、家族であり、仲間だろう。特に、夫婦は、その際の最も当てにしたいパートナーである。92年に書かかれた『対話する人間』という本の中で、その様子が時代劇のチャンバラに例えられている。中年までは、周りを取り囲む多くの敵(仕事や子育て)に立ち向かうため、夫婦は背中合わせで協力してきたが、いざ敵がいなくなった時、向かい合ってみると、自分のパートナーはこんな奴だったのかということになる。そこから、夫婦の対話という、困難な大事業が始まる。
40代になって、高校の同級生のホームページができ、同窓会も年に数回催されるようになった。これも、中年クライシスを、昔の親しい仲間で、助け合って乗り越えようという、多くの人の潜在的な意識の現れではないかと考えている。
*河合隼雄関連の記事
3月7日:『中年クライシス』
8月24日:気がかりな河合隼雄文化庁長官の容態
9月1日:『明恵 夢を生きる』を読み始める
9月5日:気がかりな河合隼雄文化庁長官の容態・その2
9月7日:『明恵 夢を生きる』を読み終わる
9月8日:90年代後半の世相を語る『縦糸横糸』を読む
11月1日:河合隼雄文化庁長官、休職
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コメント
TBありがとうございます。中年クライシスを乗り越えたい、私もそう考えています。将棋がお好きなんですね。名人戦問題はうまく着地するとよいと、同じ一ファンとして思います。
お暇があればまたおいでください。
投稿: ての | 2006年5月10日 (水) 19時23分
てのさん、TBとコメントありがとうございました。(コメントの方は、2つ届いていて、ほとんど同じ内容だったので、私の好みで最初のものを残し、後のものを削除させていただきました)
5月6日の記事にも書きましたが、周防正行監督の「Shall we ダンス?」にすっかりはまってしまいました。すぐに、リチャード・ギア主演のリメイク版も見て、今は周防正行監督が、アメリカでのキャンペーンの様子を自ら書いた『「Shall we ダンス?」アメリカを行く』を読んでいます。
将棋名人戦については、今日の新聞に、連盟側から朝日と毎日の共催案を出したとの記事が出ていました。前回、朝日から毎日に移った時、ゴタゴタで順位戦が1年間開催されなかったようなことだけは、避けて欲しいと思っています。
投稿: 拓庵 | 2006年5月10日 (水) 21時27分