「Shall we ダンス?」を見る
中年クライシスを、自分のブログのテーマに掲げていることもあり、「中年クライシス」をグーグルで検索したことがあった。その時、前原政之さんというフリーライターの方が書かれている「mm(ミリメートル)」というタイトルのブログの中の「『アメリカン・ビューティー』と中年クライシス」という記事に出会った。
その中で、「Shall we ダンス?」について
『Shall we ダンス?』の主人公(役所広司)は、ダンス教室の美しい教師に好意を抱き、社交ダンスに熱中することを通じて、中年クライシスを乗り越え蘇生する。
と書かれていたので、前から関心はある映画だったが、改めて見てみようという気になって、先週、レンタルビデオ店でDVDを借りてきて、今日ようやく見た。
たしかに、これは、中年サラリーマンの停滞と蘇生の物語だ。役所広司演じる主人公杉山は、ボタンメーカーの経理課長。28歳で結婚し、娘が1人。40代になって、郊外に念願のマイホームを手に入れた。しかし、マイホームのローンを返すために、更に頑張ろうという気になかなかなれない毎日の中、帰りの電車の中から見た、ダンス教室の窓に映る寂しげな美女に惹かれ、ダンス教室の門を叩く。窓の外を、寂しげに眺めていたダンス教室の講師舞先生(草刈民代)も、競技ダンスでのある事件が原因で傷つき、癒しと再生が必要だった。
物語は2人を軸に進んで行くが、いわくありげなダンス教室の生徒仲間たち(渡辺えり子、竹中直人等)のダンスへの思い、主人公杉山の妻(原日出子)や娘の夫・父を見るまなざし、そして、少し離れたところからこの人間模様を眺めていたダンス教室の年配のたま子先生の絶妙の舞台回し。
軽妙にコメディタッチに描かれており、一般的な映画の解説では、この映画はラブコメディに分類されるようだ。しかし、描かれた主題は深淵である。社交ダンスは、男女がペアで踊るものだ。映画の終盤、舞先生は杉山に当てた手紙の中で、自分に欠けていたものはパートーナーに対する「信頼」だったと語る。
周防正行監督が、ダンスという素材を通して本当に描こうとしたものは、夫婦のあり方だったのではないのか?という気がした。(さらに、場外の話題として、周防監督と主演女優の草刈民代が、この撮影終了後に結婚したというオチがついている)
1996年の公開で、その年の日本アカデミー賞を総なめにした名作だ。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の解説はここ)
当時、まさに中年を迎えて、転機にあった団塊の世代の心をつかんだことが、大ヒットの要因だろう。この作品は海外でも、高く評価され、ハリウッドで、リチャード・ギア主演でリメイクされた。おそらく、中年の危機(ミドル・エイジ・クライシス)は、世界にも通じる課題なのだろう。極めて典型的な日本のサラリーマンを描いたローカルな作品が、普遍的なテーマを描き切ったと言えるだろう。
「Shall we ダンス?」関連の記事はこちら
5月6日:「Shall we ダンス?」を見る(本編)
5月13日:周防監督が書いた「『Shall we ダンス?』アメリカを行く」
6月5日:ハリウッド・リメイク版「shall we dance?」と日本の「shall we ダンス?」の違い
6月6日:リメイク版「Shall we dance?」が描こうとしたもの
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