ゲド戦記6冊セットと第1巻『影との戦い』
先日、岩波新書の『魔法ファンタジーの世界』(脇明子著)を題材に、記事を書いたが、その中で、何回も取り上げられていたのが、魔法ファンタジーの代表作ともいえるル=グウィンの「ゲド戦記」シリーズ。来月(2006年7月)には、スタジオジブリのアニメ映画が公開される。
前から一度、全作読んでみようかと思っていながら、進んでいなかったので、岩波書店から読みやすく廉価なソフトカバー版が発売されたこともあり、6冊セットで購入。今日から読み始めた。
ゲド戦記の第1巻『影との戦い』(清水真砂子訳)が翻訳され、児童書として岩波書店のハードカバーとして発売されたのが1976年(原作の米国での発表は1968年)で、今年でちょうど30年になる。1992年には第1巻の『影との戦い』が、大人向けの文庫である岩波同時代ライブラリーから発売され、99年には物語コレクションと称して大人を意識した装丁にして大判のソフトカバーで再刊され、さらに映画化を受け、今回は言わば全世代対応でサイズも小型化したソフトカバー版で、装いも新たに登場している。
当初、シリーズは1972年に第3巻『さいはての島へ』の原作が米国で発表され、1977年に日本で翻訳されて以降、長らく全3巻であったが、原作者ル=グウィンは、第3巻発表から18年経た1990年に第4巻『帰還』の原作を発表し、主人公ゲドの青年から壮年、老年までを5冊で描き、6冊目はゲド戦記の世界アースシーを舞台とする5つの物語を『外伝』としてまとめている。
実は、私は、第1巻の『影との戦い』が同時代ライブラリーから出た時に、読んだのだが、当然、その後の巻も同時代ライブラリーから文庫として出されるのだろうと思っている内に、結局、文庫は出ないまま終わり、私の「ゲド戦記」経験も1巻止まりになっていた。
今回のソフトカバー版からは省かれているが、同時代ライブラリー版の巻末には1976年発行時時の「訳者あとがき」が再録され、さらに同時代ライブラリー版のあとがきも追加されている。
76年時の「訳者あとがき」には次のように書かれている。
アメリカの作家で、すぐれた批評家としても知られるエリノア・キャメロンは、この『影との戦い』を論ずるにあたって、心理学者ユングの説をひき、ゲドを苦しめた”影”はふだんは意識されずにある私たちの負の部分であり、私たちの内にあって、私たちをそそのかせて悪を行わせるもの、本能的で、残酷で、反道徳的なもの、言いかえれば、私たちのうちにひそむ獣性ともいうべきものではないかといいました。
もちろん、これはひとつの解釈にすぎませんが、たしかに人は誰も、自我に目覚め、己の内なる深淵をのぞきこんだその日から、負の部分である影との戦いを始めます。それは、否定しようにも否定しえない自分の影の存在を認め、それから目をそむけるのではなく、しかと目を見開いてその影と向かいあおうとする戦いであり、さらにその影を己の中にとりこんで、光の部分だけでなくこの影の部分にもよき発露の道を与えてやろうとする戦いです。困難な戦いですが、おそらくはそれを戦いぬいて初めて私たちの内なる平衡は保たれ、全き人間になることができるのでしょう。
こう考えていきますと、この『影との戦い』は私たちひとりひとりの内なる世界を、その心の成長を象徴的に描いた作品ということができるかと思います。(岩波同時代ライブラリー版『影との戦い』325~326ページ)
このシリーズが、いったん3巻の大賢人となった壮年ケドの活躍で終わったはずのものが、18年を経て90年代の米国で、老年・晩年のゲドが書き継がれたということは、90年代の米国で、ミドル・エイジ・クライシスが問題になっていた事と無関係ではないように思う。ゲドの一生の中で何が描かれ、何が語られるのか、じっくり読むことにしたい。
*関係する記事
6月20日:ゲド戦記6冊セットと第1巻『影との戦い』(本編)
6月22日:『影との戦い』
6月26日:ゲド戦記第2巻『こわれた腕環』
6月30日:ゲド戦記第3巻『さいはての島へ』
7月5日:ゲド戦記第4巻『帰還』
7月9日:ゲド戦記第5巻『アースシーの風』
7月16日:ゲド戦記『ゲド戦記外伝』
8月5日:『ゲド戦記』宮崎吾朗監督のメッセージ
8月13日:映画『ゲド戦記』を見て
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