夫在宅ストレス
おととい、海原純子著『こころの格差社会』(角川oneテーマ21)を読み終わった。著者は、心療内科医。以前から、臨床体験などをもとに、周りに振り回されずに自分らしく生きることをテーマにした『他人に振り回されてへとへとになったとき読む本』(青春出版社、2003年)などを多くの著作を世に出している。
この本は、「自分らしく生きるとは、自己実現とは何か」をテーマに書かれており、それについては、改めて書くとして、今日は、この本の中で著者が引用していた詩が大変おもしろかったので、少々長くなるが、孫引きして、紹介したい。
「夫の定年後」
作者:ジュディス・ヴィオースト(アメリカ)わたしが掃除を終えると、
夫はほこりが残っている箇所を指摘する。
わたしが炊事をしていると、
夫は味付けの失敗に目を光らせる。
わたしが植木に水をやっていると、
夫はそばで指導する。
ありがたく思え、と夫は言う。
ありがたすぎて熱が出そう。わたしが食事のあとフロスを怠ると、
夫は蔑みの目で見る。
わたしが500グラムでも体重を増やすと、
夫は警告を発する。
わたしが猫背で歩くと、
夫は背筋をぴんと伸ばせとたしなめる。
せめておれがいっしょのときは、と夫は言う。
今じゃ、四六時中いっしょにいるじゃない。わたしが本を読んでいると、
夫は話しかけてくる。
わたしが、電話で友だちと話していると、
夫は横でしゃべる。
わたしがスーパーに買い物に行くと、
夫は必ずついてくる。
ひとりじゃ不便だろう、と夫は言う。
ふたりじゃもっと不便よ。わたしが眉毛を整えていると、
夫は隣に座る。
わたしが髪をブローしていると、
夫はとなりに立つ。
わたしが足の爪を切っていると、
夫は爪を切りたがる。
”苦楽をともにする”って、
そういうことじゃないと思うんだけど。わたしが一秒一秒をどう過ごしているか、
夫は常に観察している。
わたしが服にどれだけお金をかけているか、
夫は把握している。
定年がくる前、わたしは夫に、
何か趣味を持ちなさいと勧めた。
だからって、なにも
妻を趣味にすることは内ないじゃないの。
(『晩恋』菜畑めぶき訳・ランダムハウス講談社)
(『こころの格差社会』151~154ページ)
会社人間として生きてきた夫が、「社員」というアイデンティティーを失うと、他に「自分」というものが見つけられないのに対し、子育てを終えた妻は、ひとあし先に、失った「いい母」というアイデンティティーの穴を埋めるため、いい妻、いい母以外の自分を見つけ始めている。その精神面での夫と妻のギャップの中で、家にいて何もしない夫を前にして、妻が抱えることになるのが、「夫在宅ストレス」ということらしい。
このような夫にはならないよう、今からいろいろ考えておかなくては…。
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コメント
日本と比べて個人主義が徹底していそうな(行ったことがないので想像ですが)アメリカでもそうなのかと、驚きました。尤も、うちの夫も仕事上の難問が解決しないなど極めて落ち込んだときは(それが続くと)、詩の夫に似てきます。普段が束縛しないタイプだけに苛々して喧嘩になり、喧嘩の中で「難問」の存在を知り、2人であれこれ考えて結果的にいい方向に向かうことが多いです。詩の夫からは、このような八つ当たりとは質の違うもっと病的な深刻なものが感じられる気もします。写生に徹しながらユーモラスに締めくくられているところが救いですね。ご紹介されていた「魔法ファンタジーの世界」入手し、読むところです。
投稿: N | 2006年6月18日 (日) 13時00分
Nさん、コメントありがとうございます。
私は、「夫婦はお互いの人生の証人だ」というリメイク版『shall we dance?』での主人公の妻ビヴァリーの言葉が印象に残っています。
適度にお互いの距離を保ちつつ、しかし、離れるわけではない。そのためのには、お互いの自立がまず必要なのでしょう。
その点は、日本も米国も、本質的なところは、共通しているのかもしれませんね。
ブログを拝見すると、同人誌に作品が掲載されるとのこと。ご活躍をお祈りしております。
投稿: 拓庵 | 2006年6月18日 (日) 13時31分
「夫の定年後」
読んでいて楽しくなりました。
私たちにあまりにも似ていて・・
「アメリカ」というのが信じられません。
「名言集」も素晴らしい。
いくつかメモしました。
投稿: a-a | 2006年9月 3日 (日) 11時00分
a-aさん、コメントありがとうございます。コメントとトラックバックについて事前に承認した上でないと表示されない設定にしているため、表示が遅れて申し訳ありません。海原純子さんの『こころの格差社会』も一度、お読みになるといいかもしれませんね。
投稿: 拓庵 | 2006年9月 3日 (日) 12時11分