後漢の祖『光武帝』
『光武帝』(講談社文庫、塚本青史著)を読み始めた。後漢の祖・劉秀を描いた歴史小説で、上・中・下の3冊組だ。
数ある中国を舞台にした歴史小説でも、劉秀・光武帝を主人公にしたものは、珍しいのではないだろうか。秦が滅んだ後、高祖・劉邦によって建国された漢(前漢)も、約200年続いた後、王莽に簒奪され「新」が建国される。
著者は王莽を主人公にした『王莽』(講談社文庫)も書いており、既に3年前に文庫化されている。そちらは、その時に読んだ。
当時、『光武帝』も単行本では既に発刊されていたが、文庫化されてから読もうと待っていたところ、今年の6月にようやく文庫が発売された。
話は、王莽がすでに皇帝となった新の治世下、滅亡した漢の皇統の傍流である劉秀の姉の嫁入りから始まる。まだ、新の治世が乱れ始めたあたりであり、これから世界史の教科書でもおなじみの「赤眉の乱」が始まりそうである。通勤の帰りの電車で読んでいたら、急行から各駅停車に乗り換える駅を通り過ぎてしまった。
中国史は、王朝による統一と分裂を繰り返す歴史である。王朝というのは、見方を変えれば、国を統治するための行政組織・制度そのものである。国民は経済生活をしており、経済は日々変化している。
例えば、農業に鉄製農具が使われるようになれば、木製の農具の時よりは、生産力が拡大し、余剰生産物が生じ、それに伴って貧富の差が生じるなどして、経済の実態と統治の制度の乖離が激しくなると、不満が生じ、反乱が起き国が滅びる。小国に分立した各地の為政者のうち、その時期の経済の実態に合った行政組織や制度を作り上げた者が、民の支持も得て国が栄え、最終的に統一を果たすことになる。
中国の分裂と統一の繰り返しは、経済の実態に合わなくなった制度を壊し、実態にあった制度作りを競う壮大なドラマであろう。
高校時代に漠然とそんなことを考えていたが、大学に入りマルクス経済学を教える経済学部で学ぶと、そのような考え方を「唯物史観」というのだと知った。
王莽のような簒奪のケースでは、簒奪の時点では、前王朝を見放した民衆の支持で、一時的に皇位に上り詰めても、時代にあった新たな制度や組織を作れないと、たちまち民衆の支持を失ってしまうのだろう。
とはいうものの、受験勉強では、後漢の祖となった劉秀(光武帝)が、特に革新的な施策を行ったという記憶もない。なぜ彼が民衆の支持を得て皇帝になれたのか、著者がどのような解釈しているのか、楽しみだ。
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コメント
初めてコメントさせていただきます。
中国は最早、あれだけの人口の購買意欲を自国の
自給自足力では、賄うことができないんでしょうね・・・自国の民を養う為に、外国からの食料や
技術を積極的に導入しなければ、国が破綻して
しまうかもしれませんね。2008年の北京五輪までは国はまとまっているが、その後は、大混乱に
なるだろうという意見もあるみたいですよ!
「光武帝」、私も読んでみたいと思います。
読まれたご感想をまた、教えて下さい。
投稿: 剛左衛門 | 2006年8月 9日 (水) 18時53分