気がかりな河合隼雄文化庁長官の容態
先週、8月17日(木)に河合隼雄文化庁長官が、奈良の自宅で脳梗塞で倒れたとのニュースが流れた。肺炎を併発し、重体。翌日には、小康状態との報道が続いたが、その後は、何も伝えられず、気がかりだ。
私は高校生の頃から心理学に興味があり、ずいぶん本も読んだが、一番多かったのは、河合長官の著作である。軽妙な語り口で、読むものを惹きつけてやまない。
河合氏は最初から心理学者を志していたわけではなく、京大の数学科を出て一時は高校の数学の教師をしている。その後、京大大学院で心理学を学び、米国留学の後、スイスのユング研究所で学んでいる。日本に戻り、京大で教鞭をとるかたわら、心理療法家として臨床治療も行い、その経験が著作の中にも反映されている。
私が、好きな本は何冊かあるが、特に、印象に残っているものに、『大人になることのむずかしさ』(河合隼雄著、岩波書店、1983年、1996年に新装版として再版)という著書がある。
これは、岩波の”子どもと教育を考える”というシリーズの1冊として出版された。教育書として出されたせいもあり、その後も、文庫化されたこともない地味な本であるが、私にはいつも読み返す一節がある。「職業の選択」という見出しの付いた一節である。
職業の選択や配偶者の選択においては、思いがけない偶然性が伴う時がある。職業や配偶者は、その人にとっての人生の一大事であるのに、偶然によって決めるなど、まったく馬鹿げているように思われるが、実際はその結果が上々であることも少なくないのである。(中略)
このことは、人生の不思議さといってしまえばそれまでだが、職業や配偶者の選択のような、あまりに重大なことになると、人間の意志や思考のみに頼っていては、あまりよい結果をもたらさないことを示しているのかも知れない。(中略)
深い必然性をもったものほど、人間の目には一見偶然に見えるといってもよく、そのような偶然を生かしてゆく心の余裕をもつことが、職業選択の場合にも必要であろう。もっとも、偶然を生かすことと、偶然に振り回されることは似て非なるものであることは、いうまでもないことである。一所懸命に行為してゆくにしろ、どこかに偶然がはいりこんでくるゆとりを残しておくことは、大人であるための条件のひとつといっていいだろう。
(河合隼雄著『大人になることのむずかしさ』岩波書店、168~169ページ)
「深い必然性をもったものほど、一見偶然に見える」との考えは、いつも、私の頭のどこかにある。いつも、「ただいま現在、こうしてあることの偶然を、どうやって次に生かしていけるだろうか?」と考えてきたように思う。
サラリーマンの仕事は、異動という自分の意志では、どうにもならないものによって左右される。新たな職場で、どんな仕事をし、社内外で誰と巡りあうかも、偶然の産物であろう。しかし、これまで、偶然に振り回されずに、なんとかやってこられたのは、この一節のおかげである。
河合長官には、なんとか回復してもらい、再び、現代の日本人に語りかけてほしい。
*河合隼雄関連の記事
3月7日:『中年クライシス』
8月24日:気がかりな河合隼雄文化庁長官の容態
9月1日:『明恵 夢を生きる』を読み始める
9月5日:気がかりな河合隼雄文化庁長官の容態・その2
9月7日:『明恵 夢を生きる』を読み終わる
9月8日:90年代後半の世相を語る『縦糸横糸』を読む
11月1日:河合隼雄文化庁長官、休職
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コメント
トラックバックありがとうございました。とてもすてきな記事なので、ぜひ転載させていただきたいと思いますが如何でしょうか。。
投稿: ぱーぷるふぃんがー | 2006年10月 9日 (月) 12時31分
ぱーぷるふぃんがー様
トラックバックにコメントいただきありがとうございます。
私の記事でよければ、お使い下さい。転載元として明記していただけるとありがたいです。
それにしても、その後の河合隼雄さんは、どうなってしまったのでしょうか。本当に気がかりです。
投稿: 拓庵 | 2006年10月 9日 (月) 16時43分
8月18日の記事 【河合隼雄氏 意識不明に・脳梗塞】
http://blog.goo.ne.jp/hayasi211/e/250eb0d72e336015394e402207052d35
にTBありがとうございました。
その後がとても気がかりです。
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ブログですが カテゴリーの多さに驚きました。また 名言集、news 、ブログペット、天気予報、本の紹介など
gooブログではあまり目にしないところがあって
楽しませていただきました。
投稿: 【風の備忘録】の林 | 2006年10月11日 (水) 12時04分
拓庵さん、こんにちは!
先日はトラバいただき、ありがとうございました。
確かに河合隼雄さんのご容態が気になりますね。
この夏に緊急入院されてから報道が全く無いようなので、
非常に心配です。
1日も早く回復されますように、私も願っております。
投稿: 文化財建造物ニュースのブログ 日本版 | 2006年11月22日 (水) 00時45分
河合隼雄さんの”心の処方箋”は私の宝物です。
私にとって心の一部であります。
投稿: 山口信二 | 2006年12月30日 (土) 19時51分
ご冥福をお祈り致します。
ほんと残念。泣
投稿: ドラぽん | 2007年7月19日 (木) 20時48分