『明恵 夢を生きる』を読み終わる
昨日、『明恵 夢を生きる』(河合隼雄著、講談社+α文庫)を読み終わった。明恵という僧侶の精神性の高さに驚嘆するばかりである。
私は、昔から歴史好きだったこともあって、大学受験の際の共通1次試験も、日本史・世界史という組み合わせで臨んだ。大学時代、社会人のなってからも、歴史関係の新書はずいぶん読んできた方だが、正直なところ、20年間積ん読になっていた京都松柏社版の『明恵 夢を生きる』でしか、「明恵」の名前を見ることはなかった。
試しに、高校時代に使った日本史教科書の定番である山川出版社の赤い表紙の「詳説日本史新版」開いてみる。「鎌倉新仏教の誕生」のサブタイトルで法然、親鸞、日蓮、一遍らが語れたあと最後に、次のように書かれている。
これにたいし、旧仏教諸宗は、いぜんとして大きな力をもっていたので、新仏教を弾圧して、自己の宗勢をまもろうとし、その反面では反省と改革をすすめた。法相宗の貞慶(解脱)、華厳宗の高弁(明恵)、律宗の叡尊らは戒律の尊重を説き、奈良仏教の復興に努力した。叡尊の弟子忍性(良観)は貧民救済・施療などの社会事業につくした。
(井上光貞・笠原一男・児玉幸多『詳説日本史新版』昭和53年、106~107ページ)
その後も、書店等で新しい山川の『詳説日本史』の教科書を見つけるたびに買いたして、他にも、1991年版、1999年版、2003年版が手元にあるが、旧仏教側が新仏教を弾圧したという記述がなくなっている程度で、明恵が奈良仏教(南都仏教)の復興に尽くしたということ以外は書かれていない。
しかし、現実の明恵は、自分の夢を丹念に記録して自分なりの解釈も加えている。年齢を加え経験が増すとともに、夢の内容が変化していく。最後は、自分の中に菩薩が入ってくるという夢を見る。一人の人間の生き方として見ると実に潔いし、年々成長し、その思想の深まりが、如実に夢に反映される様子は「すごい」というしかない。
おそらく、約20年の間、この本を開いても読み進めなかったのは、本の中から、明恵がおまえにはまだ早いと囁いていたのだろう。今の自分でも、十分読みこなせたとは思えないが、なんとか読み通すことができた。
機会があれば、戦前、広く日本人に読まれたと言われる『明恵上人伝記』にも挑戦してみたい。
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9月7日:『明恵 夢を生きる』を読み終わる
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コメント
すみません。二つ目のトラックバックを誤って削除してしまったので、お手数ですが、もう一度、二つ目のみトラックバックして頂けないでしょうか?
投稿: kpa | 2006年9月13日 (水) 21時49分
お手数をおかけしました。ありがとうございました。
投稿: kpa | 2006年9月13日 (水) 22時18分