メンタルヘルス・マネジメント検定試験開始の意味を考える
先週土曜日、新宿紀伊国屋書店の本店に行った際、『メンタルヘルス・マネジメント検定試験公式テキスト』(大阪商工会議所編、中央経済社)という本が目に入った。テキストは、Ⅰ種マスターコース、Ⅱ種ラインケアコース、Ⅲ種セルフケアコースの3種類に分かれている。
テキストを手にとってパラパラとめくってみると、職場での働く人の「心の健康管理(メンタルヘルス・マネジメント)」についての検定試験を、大阪商工会議所の主催で行うということらしい。
Ⅰ種は会社のメンタルヘルス対策を担当する人事部労務担当者・管理者や経営者向け、Ⅱ種は職場で部下を持つ管理職向け、Ⅲ種は自らのメンタルヘルスについて学ぶ一般社員・新入社員向けとのことで、とりあえず、Ⅱ種ラインケアコースのテキストを買ってきた。
これまであまりなじみがなかったので、改めて調べてみると、新しく開発された検定試験とのことで、今年(2006年)の10月8日(日)が第1回の試験らしい。(大阪商工会議所の検定の説明はこちら)
「公式テキスト発行にあたって」と題したテキストのまえがきには、次のように書かれている。
産業界にとどまらず社会全体において、働く人たちの「心の健康管理(メンタルヘルス・マネジメント)」への関心が高まっています。成果主義の導入、人員削減による労働負担の増大など、労働者を取り巻く環境はストレスを増長しやすいものとなり、心の病による休職や離職、自殺の増加が深刻な社会問題となっているからです。心の病を予防するには、個々人が正しい知識を携えて自他のストレスに対処することがきわめて重要です。また、雇用する企業においても、社会的責任の履行、人的資源の活性化、労働生産性の維持・向上のためには、メンタルヘルス対策を適正に講じる必要があります。
(『メンタルヘルス・マネジメント検定試験公式テキストⅡ種ラインケアコース』大阪商工会議所編、中央経済社発行 ページⅰより)
商工会議所は経営者サイドの立場から、企業防衛的な視点で、この検定を企画したとは思うけれど、背景はどうあれ、半ば公的機関とも言える商工会議所の検定に職場での心のケアという問題が取り上げられたということは、大きな一歩ではないかと考えている。
私自身は、心の問題を一つのテーマとして昔から関心をもっていたし、自分が上司となって部下を持つ身になった時には、心の問題ということをいつも意識してきたつもりだ。
しかし、職場の上司や同僚で心の問題を真剣に考えている人はあまりいなかったように思う。
ノルマや成果主義に縛られる上司が、自分の部署の実績が思うように上がらないと、成績の悪い担当者を「なぜできないのだ」と罵倒したり、「契約が取れるまで帰ってくるな」的な圧力をかけることがあたり前のように行われる職場もあった。私には、仕事の名を借りた、職場における単なる「社会人いじめ」にしか見えなかった。
高度成長時代は、日本経済のパイ全体が拡大を続けていたので、サボっている営業担当者は叱り、気が弱く尻込みしている営業担当者は「尻を叩いて」営業活動を行わせ、顧客との接触頻度を増やせば、拡大するパイのどこかにかじりつけただろう。結果として実績が上がれば、上司は自分の指導の結果と満足し、叱られたり・尻を叩かれた担当者の側も、相応の評価をされれば、さほどストレスを溜めることもなかったのではないかと思う。
しかし、マイナス成長・低成長の時代となった現在では、ただ上司が叱咤激励、罵倒と尻叩きだけをしていても、増えないパイのどこかにかじりつける確率はきわめて低い。上司はますますイライラし、実績も上がらず罵倒されるだけの担当者は、ストレスが溜まる一方である。
問題はそれが、職場の中だけで完結しないことだ。職場でストレスを溜めた父・夫は、家庭に帰り、妻や子どもにイライラをぶつけ、ストレスを解消する。あるいは、子どもに自分のような思いはさせまいと、子どもの思いはそっちのけで、子どもの教育にエネルギーを注ぐ。結果、父や夫が溜め込んだストレスは、家庭で通じて妻や子どもに波及し、それが妻の精神の不安定や、子どもの学校でのいじめという形で、マイナスの連鎖として広がっているような気がして仕方がない。(『子育てハッピーアドバイス』の3冊の中にも、仕事でイライラしている父が、子どものことで妻を叱り、妻が子どもに対し「あなたのせいでお父さん叱られた」と怒るという事例が、悪い例として紹介されていた)
この検定試験が社会的に認知され、多くの企業の経営者、人事部、各職場の管理者に浸透していけば、上に述べたような社会全体に蔓延するマイナスのスパイラルの発生源が少しは減る方向に向かうのではないかと期待している。
10月の試験の申込は9月1日までだったようだ。第2回はⅡ種・Ⅲ種のみだが、来年3月の実施のようだ。秋に控える各種資格試験の受験が終わったら、Ⅱ種の受験を検討しようと考えている。
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