宋と遼との戦いを語る『楊家将』(北方謙三著)を読み終わる
北方謙三著『楊家将』(上・下巻、PHP文庫)を読み終わった。
物語は、中国の宋の2代皇帝太宗(趙光義)の時代。唐が滅んだ後、中国は「五代十国」と呼ばれる分裂期に入る。そして、その混乱を統一した新国家「宋(北宋)」を建国したのが、趙匡胤(太祖)である。太祖の後を継いだ弟の太宗の時代、五代十国の中で最後まで残ったのが、中国北部に位置し、異民族国家「遼」と国境を接していた「北漢」。主人公「楊業(ようぎょう)」は北漢の武将として登場する。
兄の遺志を継ぎ、北漢を滅ぼし中国を統一しようとする宋の太宗は、自ら軍を率いて、親征に出る。その宋の親征軍に立ち向かう楊業。楊業は、塩の商圏を握り独自の収入源を持つ「軍閥」。北漢の都では、常に、楊業の謀反・離反を怖れているが、一方、楊業なくして禁軍(皇帝軍)だけでは、国の守りも覚束ない。宋の太宗の親征を前にしても、北漢の宮中では、楊業に対する疑心暗鬼が囁かれる。忠義の臣である楊業は、北漢の皇帝劉鈞と直接会って、自らの潔白を晴らそうとするが、皇帝までもが、自らを疑っていることを知り、一族のため宋への帰順を決意する。
『楊家将』(上巻)は、このように楊業の宋への帰順から幕を切って落とすが、以後、宋軍の外様武将となった楊業とその一族は、遼と国境を接する宋の北の最前線で、遼軍と対峙することになる。
五代十国の「後晋」の時代に遼に譲渡された「燕雲十六州」の奪還を先代太祖からの悲願とする太宗・皇帝。文治国家「宋」において対立する武官(軍人)と文官。軍人の中でも帰順した外様武将に対する生え抜き武将たちの蔑視。その中で、あくまで武人・軍人として生きようとする楊業とその息子たち。
一方、対立する遼の側も、幼帝を支える実権者の太后と様々な軍人達の人間模様が描かれる。
中国を舞台にした歴史小説は、日本でも多く書かれているが、宋(北宋)の時代を舞台にしたものは、少ない。宋の皇帝の御前での殿試の夢から目覚める場面から始まる『敦煌』(井上靖著)くらいしか私は読んだことがない。『楊家将』は、中国では、『三国志』『水滸伝』と並ぶ人気の物語らしいが、これまで日本に紹介されることはなかった。そんな中、楊業の存在を知った作者は、楊業に「書いてくれ」と呼ばれている様な気がしたと語っている。
本書は、2004(平成16)年に、その年の大衆文学の優秀な作品を発表した作家に贈られる吉川英治文学賞の受賞作となった。過去の受賞作で私が読んだ作品は、1987(昭和62)年の『優駿』(宮本輝)、2000(平成12)年の『火怨』(高橋克彦)などであるが、いずれも物語として読み手を惹きつけてやまない作品だった。この『楊家将』もその2作品に勝るとも劣らない出来である。
*関連記事
2006年11月25日:宋と遼との戦いを語る『楊家将』(北方謙三著)を読み終わる
2007年2月9日:『血涙 新楊家将(上)』(北方謙三著)を読み終わる
2007年2月15日:『血涙 新楊家将(下)』(北方謙三著)を読み終わる
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