将棋名人戦、毎日・朝日両新聞社の共催の詳細固まる
2006年の将棋界を揺るがした伝統のタイトル「名人戦」の主催新聞社の移管問題。3月に、将棋連盟が毎日新聞社に対して第66期以降のと名人戦主催契約の継続をしないことを通知したことを契機に、毎日新聞社の自らの紙面で将棋連盟を非難するキャンペーン を開始したこともあって、将棋連盟と毎日の関係も悪化した。しかし、8月の棋士総会で、毎日単独主催案が否決されたことを受け、将棋連盟の米長会長は、毎日と朝日に対して両社での共催を提案した。毎日側は、これまで落ち度なく名人戦を主催してきたのに、突如、契約継続せずとの通知を受け、顔に泥を塗られるに等しい仕打ちをされたことを考えれば、拒否するだろうという大方の見方に反し、9月に共催案を受諾した。その後、具体的な内容について、連盟と毎日、朝日の間で交渉が続けられていたが、27日にまとまり、28日の新聞紙上で発表された。
主な内容は、
①名人戦の契約金は3億6000万円(両社で各1億8000万円、なお毎日単独開催時の契約金額は3億3400万円)で期間5年
②両社は実行委員会を組織して運営にあたり、棋譜(対局での指し手の記録)はウェブも含め両社が独占的に掲載
③毎日がスポーツニッポンと共催で行っている7大タイトル戦の一つ「王将戦」は、従来通り継続(契約金7800万円は変更なし)
④朝日が主催している準タイトル戦の「朝日オープン選手権」(1億3480万円)は契約金が8000万円の棋戦に衣替え
⑤さらに将棋普及のための協力金として両社で年1億1200万円を5年間、連盟に対して支払う
一時、将棋連盟は4億円以上の契約金を提示しているとの報道も見たような気がするが、さすがにそれは、両社が難色を示したのだろう。
今回の騒動の背景には、将棋連盟の収支状況の悪化ということがある。前々期は赤字であったという。細かい収入と費用の内訳は知る由もないが、連盟の運営を行う理事会のメンバーは、全員現役ないし引退した棋士が行っている。彼らは。将棋のプロではあっても、経営のプロではない。その中で、現在の米長邦雄会長は、数少ない経営感覚を持った棋士であろう。現役時代、史上最年長で名人になった時、1年間主催者である新聞社の新聞の販売増に努めるのは当然と言い、全国の販売店を回るということを行った。将棋界が、その勝負を関心を持って見つめるファンのおかげで成り立っていること、そのファンに対して将棋界の情報を伝える媒体として新聞は欠かせないものであること、それらのことが、よくよくわかっていたからこその行動であろう。
しかし、かつて将棋盤を挟んで将棋を指して遊んでいた少年たちは、いまやTVゲームやインターネットに多くの時間を割いている。少年時代に、将棋に親しまなかった人が、成人して将棋ファンになるとは思えない。将棋ファンは明らかに減っているだろう。さらに、バブル崩壊後の長引く不況の中で、多くの企業が、ファンが減って相対的にPR効果が減少した将棋の棋戦のスポンサーを降り、これまで親しまれていた棋戦のいくつかが廃止された。将棋界を支える最大のスポンサーである新聞・テレビ業界とて、インターンネットの出現で、そのあり方が根底から問われている。
結果的に見れば、今回の解決策は、連盟と2社にとって、三方一両損的な妥協案であるが、見方を変えれば、時代の必然だったのかも知れないという気もする。いまや、伝統ある名人戦という大タイトル戦は1新聞社で支えるには重すぎ、スポンサーの側から見れば費用対効果の点で折り合わない。連盟の側から見れば、より多くのファンに名人戦とその予選であり、棋士の生活の中心である順位戦をより多くの人に伝え、減り続けるファンを引き留め、少しでも増やすべくPRしていくには、全国紙2社の力が必要だったということではないのだろうか。将棋連盟としては、今後5年間、両社から支払われる1億円余の普及協力金を有効に使えるかどうかであろう。また、以前にも書いたが、現役の棋士たちが、ファンが手に汗握るような名勝負を繰り広げ、1人でも多くの人にプロの将棋の勝負の世界を知ってもらうことであろう。
*将棋に関する記事
4月26日:『将棋世界』5月号
6月19日:第64期将棋名人戦
8月2日 :将棋名人戦、朝日新聞に
8月27日:米長邦雄将棋連盟会長の『不運のすすめ』
9月9日 :森内俊之名人から見た羽生善治3冠
9月20日:将棋名人戦、朝日・毎日の共催へ協議開始
11月18日:郷田真隆九段の揮毫「晩成」
12月23日:第19期(2006年)竜王戦-佐藤康光棋聖及ばず、渡辺竜王に立ちふさがる最後の壁は羽生3冠
12月30日:将棋名人戦、毎日・朝日両新聞社の共催の詳細固まる
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コメント
コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、理事会のメンバーは、将棋は「プロ」ですが、経営に関しては「アマ」です。
今回も「へたくそ」な作戦で、後手を踏んでいます。(厳しい言い方ですが)
結果的には、
「プロ」には、将棋連盟・将棋界が置かれている、厳しい立場を認識する、良いきっかけになったと思います。
また、
「プロ」も「アマ」も「ファン」も、今までは、どこか他人事的な考えがあったと思います。
私自身も、
ファンの1人として、「タダが当たり前」と思っていました(反省です)。
何をするにでも「お金はかかる」ワケですから、
「将棋」を楽しもうと思えば、ある程度の出費は仕方がないと思わないとダメでしょうし、
施行側も、
「お金を出してでも見たい(楽しみたい)!」と思えるようなイベントを企画する努力も必要だと思います。
「将棋」に対する思いは、「プロ」も「アマ」も「ファン」も関係ないと思っています。
将棋界を「より良く」するために、お互いに知恵を絞って協力して盛り上げることができたら、と思います。
投稿: ミスターポポ | 2007年1月 4日 (木) 08時02分