第7回現代短歌新人賞受賞作『鳥女』(松村由利子著)を読み終わる
歌集『鳥女』(松村由利子著、本阿弥書店)を、最終ページまで、読み終わった。
この本の帯には次のような紹介文が記されている。
臆病でありながら攻撃的、そして優しさと残酷さを併せ持つ-「鳥女」はきっと、あなたの中にもいる。
第1歌集から7年。働く、踊る、憤る・・・・・・骨太さを増した日常詠が、現代を活写する。新作60首を収め、躍動感あふれる第2歌集。
帯には、「日常詠」と書かれているが、これは作者自身を赤裸々に語った「自分詠」とでも呼んだ方が、よりふさわしいのではないかと思う。(「自分詠」などという言葉は、短歌の世界では使わないのかも知れないが)
そもそも、文学というものは、全て最後は自分を語ったものなのだろうけど、ここまで自分の内面をえぐり、五七五七七の31文字の中に、その思いを閉じこめた力は、すごいと思う。
この歌集には406首の歌が収められているが、その中で、私が最も惹かれた歌を1首あげておく。
井戸ひとつ吾の真中に暗くあり激しきものを沈めて久し
帯で語られる「臆病でありながら攻撃的、そして優しさと残酷さを併せ持つ」という評の要素の全てを含んだ歌だと思う。
この歌集は、昨年12月にさいたま市主催(文化庁、埼玉県後援)の第7回現代短歌新人賞を贈られた。
この賞は「歌人など約170名にアンケートを取り、推薦の多かった歌集と選考委員の推薦する歌集を併せ、選考会で決定する」という。一部の選考委員だけでなく、広く同好の仲間達の支持がなければ候補にも選ばれないということであろう。
選考委員の講評は
第一線の職業に生きる社会感覚と子を思う母親としての心情にもとづいて、現代に生きる女性の鋭い知性と豊かな感性により、新しい境地を開いた作風を評価して、贈賞にふさわしいものと決定した。
やはり「新境地を開いた」のだろう。本人の受賞のコメントは
短歌という小さな詩型にひかれ、心に浮かぶことを歌にしてきました。歌のもつ力の大きさの前で自分の技量のなさを痛感するばかりですが、この度の受賞を機に一層の努力を重ねなければ、と気持ちを引き締めています。(松村由利子)
作者は1994年に、すでに第37回「短歌研究新人賞」を受賞している。それでもなお、今回、2度目の新人賞に輝いたのは、この歌集で歌われている短歌の形が、それだけ新しいと選考委員達が評価したからなのだと思う。
表彰式は、3月11日(日)に大宮ソニックホール(開場正午、開演午後1時)で開かれるそうだ。
(参考)さいたま市ホームページ
松村由利子さんのブログ:「そらいろ短歌通信 松村由利子の自由帳」
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2月7日:『ミセス』3月号の第7回現代短歌新人賞『鳥女』の選評と作者松村由利子さんのインタビュー
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