松村由利子さんの歌集『薄荷色の朝に』、『鳥女』届く
大阪出張から戻ると、松村由利子さんの歌集『薄荷色の朝に』と『鳥女』が届いていた。松村さんブログ「そらいろ短歌通信」を通じて、直接作者本人にお願いしていたものが、昨日届いていた。
さっそく、開いて何首か読んでみる。昨年6月までの新聞社でのサラリー(ウー)マン生活も歌に歌われている。ある時期から管理職となったようで、第2歌集『鳥女』の中に、「春の話」との題で詠まれた12首の中に、その戸惑いも綴られている。
大いなる沼に腰まで引き込まれ目を閉じるごと内示を受ける
来月は管理職となる憂鬱に研修室の空気淀みぬ
「春の話」という題からして、新年度となる4月から管理職となる内示を3月に受けたのだろうか。あるいは、それは、時期がくればいつかはという予感も作者にはあったのかもしれない。けれども、いざ内示を受けてみると部下を持ついうことが自分に勤まるのかという不安、記者時代のように自分の一存で行動できないという不自由さ、それを思う時に憂鬱といったものがうかがえ、共感する歌である。
私も30代後半のある時、10人ほどの課の長になる内示を受けた時、自分に勤まるのかという不安がよぎった。そして、実際にその職に就くと、管理職というのは、好むと好まざるとにかかわらず、部下の人生に影響を与えざるを得ない立場であることを実感した。
日々の業務の指導・指示というのももちろんだが、それが、最も端的に現れるのが「人事考課」である。自分が書いたことだけで、全てが決まるわけではないものの、組織における最初の評価者として、自分の配下にいる人たちの評価をしなければいけないということ、その結果は、いやおうなく配下人たちの給料の多寡や出世に直接・間接に影響を与えることを意識せざるを得なかった。
チームリーダーとして、チームの面々と語り、それぞれの良さを見出し、チームが一体感をもって一つの成果を上げた時の達成感や喜びは、一人で仕事をするのとは違う醍醐味があるが、それでも、相対比較で優劣をつけなくてはいけない空しさは、なんとも言えないものがあった。私のそんな気持ちを代弁してくれているようにも思えるのが、次の歌である。
役職についた途端に見えてくる組織の中の条理不条理
作者は、何に条理不条理を感じたのだろうか?とも思いつつ、私は勝手に、人を評価することの不条理と解釈させてもらった。
紹介したのは、まだ一部に過ぎない。順次、読み進め、機会をみて紹介していきたい。
松村由利子さんのブログ:「そらいろ短歌通信 松村由利子の自由帳」
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1月24日:松村由利子さんの歌集『薄荷色の朝に』、『鳥女』届く
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1月29日:歌集『薄荷色の朝に』(松村由利子著)を読み終わる
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2月17日:『物語のはじまり』(松村由利子著)、読売新聞書評に登場
3月3日:『物語のはじまり』(松村由利子著)、週刊新潮に取り上げられる
3月8日:『物語のはじまり』(松村由利子著)は誰に、どう読まれているか(リンク集)
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