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2007年1月21日 (日)

『物語のはじまり』(松村由利子著)を読み終わる

先週来、読んでいた松村由利子さんの短歌エッセー『物語のはじまり』を、昨日、読み終った。結局のところ、私自身はこの本を、取り上げれている解説されている様々な歌人の短歌を味わうためというより、そこに書かれている、新聞社でキャリアウーマンとして20年働き、歌人として言葉による表現をしてきた一人の同世代の女性の考え方やそこから透けて見える作者自身の半生に関心があって読んでいたように思う。

物語のはじまり―短歌でつづる日常

なぜ、読書をするのか。前にも書いたかもしれないが、自分の中で、まだもやもやとして言葉にならない様々な想いに、ふさわしい言葉・表現を探すために、読んでいるような気がする。そういう読み方をする時に、同世代の作者の書いたものは、生きてきた時代の空気が似通っているだけに、共感しやすい。まして、松村さんは、同じ高校で学んだ同級生であり、また自分の亡くなった父と同じ新聞記者をしていたという点でも、親近感を感じる存在である。

本書の「5、住まう」の中の一節に、物が多いことをいやがる自分をについて考察した文章がある。

 数年前まで妙な癖があった。個数や容量の少ない商品を好んで買っていたのである。卵ならば、十個入りでなくて六個入り、牛乳やマヨネーズ、シャンプー、歯磨き粉なども小さな容器のものがいい。買い置きはしない。なくなったら買う。長年、それがなぜなのか、自分でもよく分からなかった。(中略)
 ある時、考えた。自分はなぜこんなにも物が多いことがイヤなのだろう。ふだんは、料理する時間がなく、突然の出張も少なくなかったが、ストックがあれば頻繁に買いものに行く必要がない。腐る心配がないものを買い置きしたくないのは、ヘンかもしれないと思い始めた。突きつめて考えると、自分が「今の生活」を「仮の生活」と思いたいことが分かってきた。物を買うのは、それを消費するまでの時間を買うことである。一戸建てを数十年のローンで書く買うことは分かりやすい喩えかもしれないが、キャラメル一箱であっても、その最後の一粒を食べるまでの時間を買っていると考えられないだろうか。そして、避難所で生活する人たちは、ストックなんて持たない。「仮の生活」をしている時は、買い置きする必要がないのだ。(松村由利子『物語のはじまり』中央公論新社、102~103ページ)

自分の単身赴任の経験からすれば、必ずしも個数の多いものが割安とも限らない。卵、牛乳、食パン、ハムやベーコンなど、朝食で食べるような食材は、スーパーでは4人家族が2~3日で使い切るような量が1パックになっていて、1人では使い残してしまう。寝坊をすれば、朝食を抜くこともあるとなると、気がついた時には、1パックのうちの半分くらいは賞味期限を過ぎ、捨てることになってしまった。
私が単身赴任していた札幌では、単身赴任者が多いせいか、中には、食パンが3枚で1パックになっているものなど、単身赴任者用や1人暮らしの学生用と思われる商品もあったが、それでも一部だった。醤油やソース、マヨネーズなどの調味料などは、レジャー用の小さい容器のものを使っていた。
そして、妙に印象に残っているのは、家族と生活している時は、買い置きしていてもすぐになくなるトイレットペーパーが、男の1人暮らしででは、ちっとも減らなかったことである。そこには、なんともしっくり来ない居心地の悪さがあった。18個入りのトイレットペーパーが、遅遅として減らないことに感じた違和感は、図らずも、それを使い切るまでは、自分は単身赴任を続けるのだろうということを、知らず知らずに受け入れていたことへの違和感だったのだろう。「単身赴任」という「仮の生活」にもかかわらず、自分が思う「仮の生活」の想定期間以上の買い置きをしてしまったわけだ。

「物を買うのは、それを消費するまでの時間を買うこと」という表現は、あの居心地の悪さ・違和感を見事に表してくれている。さすが歌人・詩人の表現力には脱帽である。

作者にお願いして、歌集『薄荷色の朝に』、『鳥女』(第7回現代短歌新人賞受賞作)を送ってもらうことになった。
自費出版ということで、市販のサイトでは在庫切れのところが多いようだが、松村さん本人にお願いすれば、廉価で送ってくれるとのこと。『物語のはじまり』を読んで、関心を持たれた方は、松村さんのブログ「そらいろ短歌通信 松村由利子の自由帳」にアクセスし、連絡を取られるとよいと思う。
「そらいろ短歌通信」の歌集の販売のページはこちら

*関連記事
1月18日:
『物語のはじまり』(松村由利子著)に思う
1月19日:『物語のはじまり』(松村由利子著)に思う・その2
1月21日:『物語のはじまり』(松村由利子著)を読み終わる
1月24日:松村由利子さんの歌集『薄荷色の朝に』、『鳥女』届く
1月27日:第7回現代短歌新人賞受賞作『鳥女』(松村由利子著)を読み終わる
1月29日:歌集『薄荷色の朝に』(松村由利子著)を読み終わる
2月7日:『ミセス』3月号の第7回現代短歌新人賞『鳥女』の選評と作者松村由利子さんのインタビュー
2月17日:『物語のはじまり』(松村由利子著)、読売新聞書評に登場
3月3日:『物語のはじまり』(松村由利子著)、週刊新潮に取り上げられる
3月8日:『物語のはじまり』(松村由利子著)は誰に、どう読まれているか(リンク集)

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