『ミセス』3月号の第7回現代短歌新人賞『鳥女』の選評と作者松村由利子さんのインタビュー
普段は、絶対に買うことのない月刊誌『ミセス』の3月号を買う。『ミセス』を発行している文化出版局は、現代短歌新人賞の協賛をしており、第7回新人賞を受賞した松村由利子さんの『鳥女』についての5人の選者のコメントと、松村さん自身のインタビューが載っていたからだ。
私が『鳥女』を読んだ感想は、すでにこのブログで書いたが、選者の人たちはこの歌集をどう読み、歌人・松村由利子をどう見たのか。自分が、この歌集に感じた感覚は、選者の人々を近いのか、かけ離れているのか、そんなことに興味があって、ページをめくった。
選者は5名。中村稔選考委員長を含め男性3名、女性2名。女性にうちの1人は、松村さんの師匠でもある馬場あき子さんだ。候補には、5作品があがっていたらしい。
選評を読むと、男性選者3人のうち、2人は職業人としての歌に注目している。2人の女性選者は、職業人としてよりも作者独自の感性を評価しているように見える。
知性を包むやわらかな抒情(馬場あき子)
『鳥女』は松村由利子さんの第二歌集である。松村さんは大手新聞社の第一線で活動していたキャリアウーマンの一人だが、新聞記者的な知的な社会観が表に立つ歌よりも、むしろ少し控え目な、内省的な屈折感や、豊かな感性の潤いを通して物を見ている歌に、本質にあったよいものがある。(以下略)
(『ミセス』3月号、190~191ページ)
静かな覇気(栗木京子)
『鳥女』の印象をひとことで表すならどんな言葉がふさわしいだろうか。静かな覇気、そう言ってみたいような気がしている。(中略)
人一倍真面目で、しかも、情熱的。前向きでありながら、ふと立ち止まったときに、いじらしいほどの逡巡をみせる。そういった揺れ動く内面を五句三十一音の定型に歌い収めている。やや硬さを残す端正な文体にも好感を持った。さらなる飛躍を期待したい。
(『ミセス』3月号、190~191ページ)
私の印象は栗木さんに近い。選者も歌人なので、言葉の使い方が素晴らしい。「静かな覇気」とは、言い得て妙。
私が力んで「自分の内面をえぐり、五七五七七の31文字の中に、その思いを閉じこめた」とか「一人の女性の情念というようなものが感じられるのだが、その想いはどこか乾いた感じがする」と書いたことが、「静かな覇気」という言葉で全て表現されてしまっているような気がする。
この「静かな覇気」と呼応するようなコメントが作者のインタビューの中にあった。
実は詩も好きで以前は書いていましたが、あふれ出てくるものを表現しようとすると、どうにも収拾がつかなくなってしまうんです。とても自分のスタイルを作ることなどできませんでした。それに比べて短歌は三十一音という詩型の中に感情や思いを凝縮させる面白さがあり、自分の表現にぴったりだと思ったのです。まるで小さな香水の瓶にその時の気持ちを永久保存できるようなイメージを短歌に抱いていました。
(松村由利子、『ミセス』3月号、189ページ)
インタビューは、今後の活動について聞かれ、次のようなコメントで締めくくられている。
これからは、自分自身の歌を高めていくことはもちろんのこと、他の歌人が作った歌を一つでも多く紹介して、短歌のすばらしさを伝え、言葉の力で人を幸せにしたり、励ましたりできればと思っています。
(松村由利子、『ミセス』3月号、189ページ)
この記事では、選者の評とあわせ、『鳥女』406首の中から、秀歌抜粋三十首が選ばれているのだが、その中に、私が1首だけなら、この歌と選んだ
井戸ひとつ吾の真中に暗くあり激しきものを沈めて久し
も選ばれていた。そんなに間違った読み方はしていなかったようだ。ご興味がある方は、自分の1首を探してみては、いかがだろうか。
松村由利子さんのブログ:
「そらいろ短歌通信 松村由利子の自由帳」の『鳥女』のページはこちら、(歌集『鳥女』の注文も受付中)→『鳥女』の販売は終了
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2月7日:『ミセス』3月号の第7回現代短歌新人賞『鳥女』の選評と作者松村由利子さんのインタビュー
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3月3日:『物語のはじまり』(松村由利子著)、週刊新潮に取り上げられる
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