『風が強く吹いている』(三浦しをん著)を読み終わる
年末年始少し長めの休みをとることにしていたので、休み中に読もうと年末に買ったまま、結局読まないまま「積ん読」になっていた本が何冊かある。
『風が強く吹いている』(三浦しをん著、新潮社)もその1冊。TBSの「王様のブランチ」で、箱根駅伝を舞台にした話と聞き、中学から大学まで陸上部にいた私としては、ぜひ読んでみようと思い、購入。しかし、その後、このブログでも紹介した短距離選手を主人公にした『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子著)の存在を知り、より自分のやっていたことに近い『一瞬の風になれ』を、まず読んだ。
次は、いよいよ駅伝である。『風が強く吹いている』の主人公は、寛政大学4年生の清瀬灰二(ハイジ)。ある春の夜、銭湯からの帰り、コンビニから万引きをして猛スピードで走って逃げる若者を魅入られたように追いかけるところから、この小説は始まる。
逃げていた若者が、寛政大学に入学するため、上京してきていた蔵原走(かける)。走が、この小説のもう一人の主人公である。
住むところのない走をハイジが、自分に住む寛政大生用の「青竹荘」に連れ帰り、9室のうち残っていた最後の1室の住人にする。青竹荘には、既に9人の住人がおり、走が加わって10人となった。走の歓迎会の席上、青竹荘の世話人ともいえるハイジが、この10人で箱根駅伝を目指すと宣言し、住人達からは不満の声が上がる。
その不満をなだめつつ、どうやってハイジは、素人ばかりの集団を、箱根駅伝を目指す集団に変えていくのか、ハイジの手腕が見所の一つだろう。
後半、10人のメンバーのひとりひとりが走りながら、自らを振り返る場面も、なかなかいい。
『一瞬の風になれ』も『風が強く吹いている』も、陸上競技という個人競技の中での、短距離のリレーと長距離の駅伝というチーム競技の要素が強い種目を素材に、画一的な管理社会、弱肉強食の競争社会のアンチテーゼを描いているようにも思う。
個性ある人をどうやって育てるのか、どういう時に人は成長し、力を発揮するのか。仲間と一緒に、チームを組むことで、1人で走る時以上の力が引き出されるのではないか。
今、この時代に相次いでこれらの作品が書かれたのは、やはり、現実社会が息苦しい部分く、人と人のつながりが希薄になってきているからなのであろうか?そんなこともふと考えさせられた作品だった。
しかし、陸上競技、とりわけ「走る」ということが、短距離、長距離のそれぞれで小説に取り上げられ、どちらも多くの人に読まれ、評判になっているのは、ながく陸上をやって来たものとして、うれしい限りである。
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» 風が強く吹いている 三浦 しをん [モンガの独り言 読書日記通信]
風が強く吹いている
三浦 しをん
278 ★★★★★
【風が強く吹いている】 三浦 しをん 著 新潮社
《テレビで見る箱根駅伝より300倍の感動をもらえます!》
内容(「BOOK」データベースより)
箱根の山は蜃気楼ではない。襷をつないで上っていける、俺たちなら。才能に恵まれ、走ることを愛しながら走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原走。奇跡のような出会いから、二人は無謀にも陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。たった十人で。それぞれの「頂点」をめざして…。... [続きを読む]
受信: 2007年2月 8日 (木) 00時01分
» 「風が強く吹いている」三浦しをん [ナナメモ]
風が強く吹いている
三浦 しをん
寛政大学4年の清瀬灰二は肌寒い三月、すばらしい「走り」で万引きしたお店から逃げていく蔵原走に出くわし、自転車で追いかける。運命の人に出会ったのだ。
スポーツの秋です!体力の全くない私。子供の運動会のビデオを撮る為に歩いてるだけで筋肉痛になるほどの体力のなさ。そんな私が出来る「スポーツの秋」は読書でスポーツなんですよね。
竹青荘のメンバーと一緒に早起きして、トレーニングしました!走りました!(頭の中で)引き込まれる本でした。来年の箱根駅伝はちょ... [続きを読む]
受信: 2007年2月 8日 (木) 22時20分
» 風が強く吹いている 三浦しをん [粋な提案]
装画・挿画は山口晃。装幀は新潮社装幀室。
寛政大学四年生、清瀬灰二は銭湯からの帰り道、万引きした男の走りに目を奪われ、自転車で追跡。無一文の万引き犯で、四月から後輩になる蔵原走(カケル)に自分が住んでいるアパート、... [続きを読む]
受信: 2007年2月 9日 (金) 00時08分
» 「風が強く吹いている」三浦しをん [本のある生活]
風が強く吹いている
うぉー!これは良かったです!みなさんがあまりに熱心に勧めてくださるんで、期待しすぎてがっかりしたらどうしよう・・と思ったりしてたんですが、期待以上でした。ここは泣くところじゃないだろうと思うようなところでも、途中何度も何度もじわっじ....... [続きを読む]
受信: 2007年2月 9日 (金) 22時14分
» 「風が強く吹いている」三浦しをん ★★★★☆ [羊を数える日々]
すばらしい! 本を読んでこんなに興奮したのは、本当に久しぶりである。いまだに脳の火照りが静まらないぜ。 本作「風が強く吹いている」は、箱根駅伝を舞台にした直球ど真ん中の青春小説である。走ることを渇望しつつも、ケガが原因で競技生活から遠ざかっていた「清瀬灰..... [続きを読む]
受信: 2007年2月11日 (日) 01時08分
» 風が強く吹いている 三浦しをん [今更なんですがの本の話]
コンビニでパンを万引きし、逃げ走る一人の青年。
清瀬灰二はそのフォームを一目見て確信する。彼こそが自分の追い求めていたものを、具現化してくれる男だと。
蔵原走と名乗ったその男が自分の後輩であり、入学式を前に一文無しで無宿だと知ると、灰二は自分の住む学生寮....... [続きを読む]
受信: 2007年2月11日 (日) 15時50分
» 「風が強く吹いている」三浦しをん [犬小屋にネコ]
風が強く吹いている三浦 しをん著新潮社 (2006.9)ISBN : 4104541044¥1,890
好きでよく見ていたスポーツが3つあって、テニス・高校野球・箱根駅伝だった。
テニスは深夜の長時間放送についていけなくなって、自分が高校を卒... [続きを読む]
受信: 2007年2月15日 (木) 21時28分
» 面白かったBOOK [夢の実現]
先日友達にすすめられ、読んでみたのがこれ↓
『一瞬の風になれ』 著/佐藤 多佳子 全3巻
高校の陸上部の話。
ただ、走る。走る。走る。他のものは何もいらない。
この身体とこの走路があればいい……。
「1本、1本、全力だ」
←これです。
私の...... [続きを読む]
受信: 2007年6月28日 (木) 21時01分
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