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2007年2月16日 (金)

『物語のはじまり』(松村由利子著)、読売新聞書評に登場

このブログでも、何回か取り上げた松村由利子さんの短歌エッセイ『物語のはじまり』(中央公論新社)が、読売新聞の2月13日の書評欄で取り上げられたらしい。

物語のはじまり―短歌でつづる日常

我が家では、読売新聞はとっていないので、インターネットで探してみると、読売新聞のホームページ「YOMIURI ONNLINE」の中の「本よみうり堂」というコーナーに再録されていたので、長くなるが引用しておく。

秀歌を通して日常を点描

 ふだん私は歌(短歌)とは無縁の暮らしをおくっている。けれども、たまたま手にした本書は行きつ読み、戻りつ読みを繰り返した。難しかったからではない。歌にこれほど自分の思いをすくいあげて貰(もら)ったことがなかったからだ。取り上げた歌をてらいなくふつうに、しかしハッとさせる解釈で語ってくれる著者の言葉が道案内になり、歌は一段と輝く。

 ひとに紹介したいと思う歌が次々に出てくる。ひとに読ませたいと思うしみじみした著者の語りがいっぱい出てくる。恋する、ともに暮らす、住まう、働く、食べる、産む、育てる、老いる…それぞれの日常の場面で詠まれた歌から著者が選び出したものは、みな深い思いをたたえながらしかし湿っぽくない。「恋はフィフティ・フィフティ」とみる著者に取り上げられた恋の歌にうじうじしたものはない。重く辛い歌も著者のようにおおらかによみとれば、歌と共に生きる幸せに転化する。

 著者は20年ほど新聞社に勤め、とくに生活家庭部の所属が長かった。文字どおり「生活」と「家庭」に関するニュースを追った記者生活の経験が著者の短歌への感性をつくっている。だから暮らしからかけ離れた思想によらず、日常を手足と言葉でしっかり生きている。

 短歌界では日々膨大な数の作品が生まれるそうだが、歌壇ジャーナリズムが取り上げるのは「新奇性や話題性のある作品」。味わい深い作品でも、話題にならずに忘れられてゆくことが多いらしい。本書は、現代短歌から秀歌を選び、その歌で日々の生活を点描してみようとの試みである。

 私は歌がなくても生きてゆける人間である。でも世の中には歌で人生を乗り越えてきたひとがいるであろう。はじめてそう思った。日常を詠んだ何気ない短歌に、深い思いの淵(ふち)が見える。短歌にはまってしまうかもしれない。

 ◇まつむら・ゆりこ=1960年福岡県生まれ。元毎日新聞記者。今年3月、歌集『鳥女』で現代短歌新人賞を受賞する。

中央公論新社 1800円

評・白幡洋三郎(日文研教授)

最初に語られる、「歌にこれほど自分の思いをすくいあげて貰(もら)ったことがなかったからだ。取り上げた歌をてらいなくふつうに、しかしハッとさせる解釈で語ってくれる著者の言葉が道案内になり、歌は一段と輝く。」というところは、この本で作者が目指したものであろう。

これは、作者がインタビューで語った

これからは、自分自身の歌を高めていくことはもちろんのこと、他の歌人作った歌を一つでも多く紹介して、短歌のすばらしさを伝え、言葉の力で人を幸せにしたり、励ましたりできればと思っています。
(松村由利子、『ミセス』3月号、189ページ)

というコメントに呼応する。

この書評を機会に、さらに一人でも多くの人に読んでほしいというのが、読み終わった一読者の感想である。

松村由利子さんのブログ:「そらいろ短歌通信 松村由利子の自由帳

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1月21日:
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2月17日:
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3月11日:
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コメント

パソコンデータのバックアップについてのメール、ありがとう。まだ新しいパソコンのメールソフトに精通してなくて、うっかり消してしまい、もとのアドレス帳も残ってないので、こちらにお礼を書きにきました。ちゃんと内容は頭には残ってますので、参考にさせていただきます。

松村さんの本、私も読んでみたくなりました。本屋で探してみようっと。

投稿: くみ | 2007年2月17日 (土) 23時59分

くみさん、コメントありがとうございます。
メールは、再送しておきます。

松村さんの本と歌集はお薦めです。ぜひ、読んでみてください。

投稿: 拓庵 | 2007年2月18日 (日) 00時19分

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