『血涙 新楊家将(上)』(北方謙三著)を読み終わる
以前、このブログでも取り上げた『楊家将』(北方謙三著)の続編にあたる『血涙 新楊家将』が昨年の年末に単行本として発売された。
『楊家将』は、吉川英治文学賞まで受賞した読み応えのある作品で、すっかり、北方『楊家将』の虜となった私は、『血涙』も、年末年始の休み中に読むつもりで購入。『強い風が吹いている』と一緒に、しばらく「積ん読」になっていた。
前作の主人公は、宋に帰順した軍閥の頭領「楊業(ようぎょう)」。彼には7人の息子がいて、それぞれ鍛えられ成長し、父を支える。楊業は、変幻自在の用兵で、遼軍を悩ませ、怖れさせる。一方、遼にも、本隊から離れ独立行動を認められた「白い狼」と呼ばれる耶律休哥(やりつきゅうか)がいた。楊業と耶律休哥というお互い認めあったライバルの死力を尽くした戦いが、前作『楊家将』の見所である。
前作後半で、宋の太宗は、先代からの悲願である「燕雲十六州の奪回」を目指して、大軍を率いて、遼に親征する。しかし、遼内に攻め込んだ宋は、大軍ではあるもののまとまりを欠き、太宗の一隊が遼軍に包囲される。楊一族は、太宗を救うため、一族が、あるものは太宗の身代わりとなり、またあるものは戦いの中で次々と最期を遂げる。さらに、楊業自身も、味方の裏切りにあい、命を落とす。楊一族が、命がけで、宋主・太宗を守ったところで、前作は終わる。
『血涙』は、楊一族の男子7人の中で生き残った楊六郎、楊七郎と、宋の軍人で宋主の親政の際、耶律休哥との戦いに敗れ、死にかけて記憶を亡くし、その力量を惜しまれて耶律休哥のもとで、遼の将軍として成長する石幻果を軸に語られる。
父亡き後、散り散りになった楊家軍を再興しようと奔走する楊兄弟。父とも慕う耶律休哥のもとで、一戦毎に力をつけ、ついには耶律休哥に劣らぬ用兵術を身につける石幻果。
そして、楊六郎と石幻果が戦場で相見える。斬り合った楊六郎の剣が石幻果の兜をとばした時、石幻果は、宋の軍人であった時の自分の姿を鮮明に思い出す。そして、そこから石幻果の苦悩が始まる。
『血涙』とのネーミングは、内容を物語る。かつての自分を思い出した石幻果は、その苦悩をどう決着させていくのか。下巻では、『血涙』の名にふさわしい結末が待っていそうである。
*関連記事
2006年11月25日:宋と遼との戦いを語る『楊家将』(北方謙三著)を読み終わる
2007年2月9日:『血涙 新楊家将(上)』(北方謙三著)を読み終わる
2007年2月15日:『血涙 新楊家将(下)』(北方謙三著)を読み終わる
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