松村由利子さん、『物語のはじまり』の作者として日本経済新聞の読書欄に登場
今日(2007年3月11日)の日本経済新聞の朝刊の読書欄の「あとがきのあと」で、『物語のはじまり』(中央公論新社)の作者として、松村由利子さんが顔写真入りで取り上げられた。
作者のインタビューを織り交ぜた記事は次のように始まる。
食べる、恋する、住まう、老いる。日常生活の様々な出来事をうたった佳品を、エッセーに織り込んで紹介した。「短歌には、口ずさめば心が明るくなるような作品がたくさんある。一首が短いから小説ほど読むのにも時間は要らないし、忙しい人にこそ親しんでほしいと思った」。執筆のきっかけを語る。
この記事を書いている記者は、この本の本当の良さを理解していると思ったのは次の一節だ。
日常生活や取材での出会いなどから紡いだ経験談が短歌をやわらかく包みこむ。例えば「もろともに冬幾たびを籠もりつつきみこそもつと知りたきひとり」(今野寿美)を引きつつ、好きな相手の読んだ本を知りたくて図書館の貸し出しカードを片っ端からチェックした思い出を語るくだり。「こんなに自分をさらけ出すなんて、みっともない」と笑うが、そこが本書の魅力の源泉でもある。
この本が、ただ単に他の歌人の短歌を解説するだけの本であったら、おそらく短歌の世界の中だけの話題で終わっただろう。
読者は、短歌と主に語られる作者自身の姿に共感する。そこに語られるのは、あくまで作者個人の経験なのだけれど、同じ空気の中で生きてきた30代から50代前半ぐらいの人たちにとって、自分も「同じような経験、思いをした」ということが、そこここに散りばめられている。
図らずも、時代の代弁者になっていることが、TBSの「hito」という番組で「今を生きる人」として取り上げられ、今回、日経新聞でも取材を受けた理由ではないかと、私は思っている。
記事は、最後に作者の次の言葉と記者のコメントで締めくくられる。
「歌を詠むのは自分の心の地下室に下りていくこと。いい点悪い点含めていろんな面が見えるので、つらいこともある」。短歌とは苦楽あわせ持つ存在、つまり人生そのものなのだろう。
「心の地下室の下りていく」というコメントは、TBSの「hito」の中でも語られていた。一人で、自分の心の内側と向き合う作業、それが、歌を詠むということなのだろう。
昨日(3月10日)発売された、文藝春秋4月号では短歌欄に、「花の色」という題の松村さんの新作短歌8首が掲載されている。こちらも、ぜひご覧いただきたい。
松村由利子さんのブログ:「そらいろ短歌通信 松村由利子の自由帳」
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3月3日:『物語のはじまり』(松村由利子著)、週刊新潮に取り上げられる
3月8日:『物語のはじまり』(松村由利子著)は誰に、どう読まれているか(リンク集)
3月11日:松村由利子さん、『物語のはじまり』の作者として日本経済新聞の読書欄に登場
3月12日:第7回現代短歌新人賞表彰式での松村由利子さんの様子
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コメント
拓庵さん、こんばんは。本日、さいたま市で行われた第7回現代短歌新人賞表彰式に行ってきました。松村さんは、少し緊張しておられた様でしたが、さくら色のお着物に受賞作「鳥女」にちなんでか、鳥の柄の入った帯がとても良く似合っておられて、まぶしいくらい美しかったです。受賞のあいさつの最後の「人の心に届くうたをつくっていきたい。」という言葉が印象的でした。想像していた通りの、知的で優しそうな方でした。ちなみに、表彰式のお土産はミセス3月号でした。
投稿: トロア | 2007年3月11日 (日) 20時23分
トロアさん、表彰式の様子をお伝えいただきありがとうございました。
今日が表彰式というのは、私も知っていましたが、家の用事もあり、行くことはできませんでした。
できれば、投稿していただいたコメントの全文を、表彰式の様子ということで、私のブログに本文に転載させていただきたいのですが、よろしいでしょうか。
投稿: 拓庵 | 2007年3月11日 (日) 20時57分
もちろん、いいですよ。私のコメントをブログに載せていただけるとのことで光栄に思います。ありがとうございます。
投稿: トロア | 2007年3月12日 (月) 09時27分
たびたびすみません。歌人、梅内美華子さんのHPの中のブログに、昨日の表彰式の様子が詳しく書かれていました。同じ日に、同じ場所にいたのに歌人の方が表現されるとこうも表現がすっきりと洗練されるのかと思いました。
投稿: トロア | 2007年3月12日 (月) 10時16分
トロアさん、快諾いただきありがとうございました。
今日の記事に転載させていただきました。
また、梅内さんブログについての貴重な情報もありがとうございました。こちらも、今日の記事で紹介させていただきました。
今後とも、よろしくお願いします。
投稿: 拓庵 | 2007年3月12日 (月) 21時28分