『物語のはじまり』(松村由利子著)、週刊新潮に取り上げられる
週刊新潮の3月8日号に『物語のはじまり』が紹介されているとのことで、さっそく、確認してみた。TEMPOBOOKSというコーナーで、取り上げられていた。
松村由利子「物語のはじまり 短歌でつづる日常」
短歌・俳句という短詩のリズムは日本語の個性に深く根ざし、日本人の感受性の基底に刷り込まれている。暗唱できる短歌がひとつもないという人はまれだろう。
日本人にとってそれほど親しみのある詩型だが、しかし改まって短歌鑑賞ということになると、絵画や映画を見に行くほどには経験がないかも知れない。知っている短歌は、みなかなり前につくられたもので、作者は故人ばかりというのでは寂しい。いま、この時代を生き、同じ空気を呼吸している歌人たちが、三十一音で切り取った「現代」を覗いてみてはいかが。
本書は、現代短歌を初めて味わう人におすすめできる入門書だ。「食べる」「働く」「育てる」などのテーマ別に章がたてられ、かたくるしい批評ではなく、しなやかな随筆のかたちをとって数多い佳品が紹介されていく。現代短歌の実りを鑑賞するのに好適なだけでなく、これから短歌の実作に挑戦しようという人にも役にたつ。現代のうたびとたちは、こんなふうに生き、思い、表現しているのだと、心強い気分になれる。(中央公論新社・1890円)
(週刊新潮2007年3月8日号126ページ)
短歌をエッセイの中で語るという著者の語りのかたちが、大げさに言えば新しい文学・書物のジャンルを切り開いたということなのではないかと思う。
短歌を歌人の世界の中だけで語るのではなく、世の中に広めること。そして多くの人が、自分の好きな歌を口ずさみ、そこに癒しや明日への力を得ることが、著者が望んでいることであろう。松村さんは、『物語のはじまり』のあとがきにあたる「おわりに」で次のように述べている。
この本は、日々の生活を短歌で点描するといういっぷう変わった試みである。テーマごとに、愛唱してきた歌の数々を引用したが、古今の名歌を網羅したものではないから、物足りなく思われる方もいるかもしれない。作品を自身に引きつけ過ぎた解釈が多いというご批判もあろう。歌を読む喜びを多くの人に伝えたいという熱意のあまりゆえとお許しいただきたい。読んでくださった方の心に響く歌が一首でもあれば、うれしい限りである。
(『物語のはじまり』244ページ)
歌を「詠む」喜びではなく、歌を「読む」喜びとなっている。あまたある現代短歌の中に、きっと、それぞれの人にふさわしい歌がある。歌人すなわち「詠み手」であり、「読み手」でもある作者が、、自ら愛唱する歌を披露したのが、本書と言えるだろう。
松村由利子さんのブログ:「そらいろ短歌通信 松村由利子の自由帳」
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