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2007年3月 6日 (火)

芥川賞作家の宮本輝さん、還暦を迎える

作家の宮本輝さんが、今日で還暦を迎える。1947(昭和22)年3月6日に神戸市で生まれ、今日が60歳の誕生日である。

私は、20年来の宮本ファンなのだが、さすがに誕生日まで意識したことはなかった。宮本輝公式サイトとして「The Teru's Club 」というページが開設されており、数年前に会員登録をしていた。数日前にサイトの運営事務局からメールが届き、登録会員が、還暦のお祝いを書き込めば、事務局が、ご本人に届けてくれるというのだ。もちろん、ささやかながらお祝いの言葉を書き込ませてもらったが、恥ずかしながら、その時初めて、3月6日が宮本さんの誕生日だと知った。

私が、宮本作品と最初に出会ったのは、まだ社会人になって間もない頃である。最初に読んだのが『春の夢』(文藝春秋刊)。新刊で、朝日新聞の書評を見て面白そうだと思い、福岡・天神の紀伊國屋書店で見つけ、購入した。
大学を卒業してホテルで働く主人公哲之、父は亡くなり、母とは別々に暮らしている。死んだ父が残した借金の取り立てに怯えながら生活だが、真面目にけなげに生きているという話だった。
部屋を引っ越した時に、暗い部屋で帽子を掛けるのにと釘を打ったら、そこにいた蜥蜴を気づかずに打ち抜いてしまい、部屋に帰ると釘づけにされた蜥蜴が蠢いているのだ。
釘に打たれた蜥蜴は、なかなか自分の境遇から抜け出せない主人公の分身でもあったのだろう。
しかし、決して暗い話というわけでもなく、そこには青春が描かれていたと思う。
公式サイトで調べてみると『春の夢』の発売は1984(昭和59)年12月、多分私が読んだのは年が明けた1985年の年初だったのではないかと思う。

その後、間を置かずに読んだのが『錦繍』(新潮社刊)である。離婚した男女が、数年ぶりに蔵王のゴンドラ・リフトの中で再会する。男は、やつれて風采が上がらない姿で、女は障害児を連れた母として。
話は小説の形ではなく、まず女から男へあてた手紙で始まる。そして、男からの返事。すべて、手紙のやりとりだけで、話は語られる。それぞれが、別れた時の自分を語り、その後の生き様を語る。時に相手を責め、詫び、悔いる。
しかし、手紙で語り続けていく中で、今の自分の姿は過去の自分の行いの結果であり、今の自分の行動の積み重ねからしか、将来の自分を変えていくことはできないことに気がついていく。過去を受け入れ昇華させる中で、今まで否定していた自分を受け入れ、お互い、それぞれの道を前向きに生きるようになる。
何回も繰り返して読み、人にも読めと勧めた。宮本輝の神髄が現れた作品だと思っている。宮本作品をどれか1冊だけと言われたら、今でも『錦繍』と答えたい。

宮本輝さんは、物語作家である。どうして、こんな話が語れるのだろうと思うほど、話を作ることが巧みだ。いつの間にか、作中世界に引き込まれている。
還暦は一つの通過点。これからも、物語作家として、ファンを楽しませる作品を世に送り出してほしい。

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