佐藤多佳子さんが語る『一瞬の風になれ』執筆の舞台裏・その2
昨日(2007年4月25日)の朝日新聞の朝刊の別刷で「be Extra Books」という読書特集があって、今年の本屋大賞について特集されていた。
本屋大賞の1位から10位までの作品について紹介され、1位から5位までは推薦した書店員の3人の推薦文が載せられている。
更に、1位となり大賞に輝いた『一瞬の風になれ』については、作者の佐藤多佳子さんのインタビューが顔写真入りで掲載されていた。このブログでも取り上げた同じ朝日新聞夕刊の受賞時のインタビューと同じ時のものか、改めてインタビューしたのかは、わからないが、前回の記事には書かれていなかったことがいくつか紹介されているので、このブログでも続編として紹介することにする。(以下、引用は2007年4月25日朝日新聞朝刊「be Extra Books」6ページより)
まず、なぜ陸上を、リレーを取り上げたかについて語っている部分がある。
「私自身は文化系ですが、試合観戦やスポーツ漫画が好きで、作家になった時からいつかはスポーツものを書こうと思っていました。いろいろ考えた中、4人の選手がバトンをつないでいくというリレーが面白そうだったんです」(佐藤多佳子)
記事ではさらにその後について次のように続く。
知識がなかったため、構想は白紙のまま高校の陸上部を見学。4年もの歳月をかけて丁寧に取材した。(記事)
4年間陸上部を見つつづけた佐藤さんは、語る
「2学年分の生徒を、入学から卒業まで見送ったことになります(笑い)。仕事を忘れるほど面白かったですね。地味な練習を重ね、ストイックな部分があるせいか、まじめで素直な生徒が多い。こんないい世界があるなら、それをそのまま書こう、と。話を作ろうと思えばいくらでも架空の展開を盛り込めますが、それはせず、あくまでも陸上を通して起きるドラマを軸にしました」(佐藤多佳子)
作中で語られる試合や合宿、練習の様子、主人公新二が女子部員にほのかに抱く恋心を封印する姿、どれも自分たちが高校生だった頃、こんなことあったよなと思わせるリアリティがあるのは、下敷きとなる事実があったからだろう。作者である佐藤さんは、それを再構成したに過ぎないのだろう。
また、実際の部員たちの話を聞くうちに、リレー競技を描くという設定にも変化が生じた。(記事)
「ショートスプリンターにとっては、リレーも大事だけれど個人競技の100メートルをいかに早く走るかが課題。そこを書かなければ足りないと分かり、とにかく全部書くことにしました」(佐藤多佳子)
高校で短距離をやる選手にとってリレーメンバーになることは、ひとつの目標だが、そのためには、まず個人のタイムが速くなくては選ばれない。個人種目でどの程度の成績を残したメンバーでリレーが組まれているのかということで、他校はまず品定めをしてくる。リレーで優位に立つためにも、個人種目の100や200で、いい成績を収め、他校のメンバーにプレシャーを与えることにもなる。
『一瞬の風になれ』では、短距離選手にとってのリレーと個人種目の100メートル、200メートルの意味が実によく描きわけられていて、そこもリアリティを感じた大きな要因である。書き足したことによって、作品として完成したものになったと思う。
記事では、出版の事情について、次のように説明する。
一冊にまとめるはずが、かなりの分量に。読み返し、どこを削ればいいかを悩んだ。担当の編集者に相談するとひと言「どこも削らなくていい」。そして、”風になる瞬間”をたっぷり堪能させてくれる、全3巻が出版されることになった。(記事)
全3巻の隅から隅まで堪能した読者としては、「どこも削らなくていい」と言い放ってくれた講談社の編集者に感謝の気持ちで一杯である。
まだ、読まれていない方は、改めて一読を勧めたい。
*関連記事
1月25日:陸上部の青春を描く『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子著)(1)イチニツク
1月28日:『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子著)(2)ヨウイ
1月31日:『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子著)(3)ドン
4月7日:2007年本屋大賞、『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子著)に決定
4月8日:佐藤多佳子さんが語る『一瞬の風になれ』執筆の舞台裏
4月26日:佐藤多佳子さんが語る『一瞬の風になれ』執筆の舞台裏・その2
4月28日:佐藤多佳子さんが語る『一瞬の風になれ』執筆の舞台裏・その3
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