将棋A級棋士のA級順位戦での通算成績
第65期の将棋名人戦は、挑戦者郷田真隆九段の先勝でスタートしたが、毎日新聞社が提供する有料サイト「名人戦棋譜速報」を眺めていたら、今期(第66期)のA級順位戦の棋士の順位と各人の9回戦までの全局の対戦予定カードが掲示されていた(順位1位者は、名人戦の敗者なので未定)。
順位戦の順位(ランク)は、前年度の成績順で決まる。毎年、その繰り返しなので、今期の順位はこれまでのA級での成績の積み重ねの結果でもある。
当然、現在の高順位にいる棋士は、過去の成績も相応の成績なのだろうと思い、各棋士の通算成績を分析してみた。
◎第66期の名人・A級棋士のA級順位戦通算成績
順位 | 棋士名 | A級(名人) | 勝 | 負 | 勝率 |
名人 | 森内俊之名人 | 8期(4期) | 53 | 18 | 0.746 |
挑戦者 | 郷田真隆九段 | 4期 | 19 | 17 | 0.527 |
2 | 谷川浩司九段 | 20期(5期) | 121 | 59 | 0.672 |
3 | 羽生善治三冠 | 10期(4期) | 60 | 29 | 0.674 |
4 | 佐藤康光二冠 | 9期(2期) | 50 | 31 | 0.617 |
5 | 丸山忠久九段 | 7期(2期) | 36 | 27 | 0.571 |
6 | 藤井猛九段 | 6期 | 27 | 27 | 0.500 |
7 | 久保利明八段 | 4期 | 16 | 20 | 0.444 |
8 | 三浦弘行八段 | 6期 | 23 | 31 | 0.425 |
並べて見ると、在籍が短くて挑戦者となった郷田九段除き、ほとんどA級順位戦の通算勝率と今期の順位(ランク)が見合っている。
森内名人がA級順位戦では羽生三冠をも上回る圧倒的な勝率を残していること、現在、無冠ではあるものの17世名人の資格を持つ谷川浩司九段が依然として高い勝率を示し、トップレベルを維持している事なども興味深い。
(谷川九段と羽生三冠の間で、わずかに勝率が逆転しているが、2人のプレーオフでの対戦成績1勝1敗を加えれば、ちょうど0.670で同率になる。なお、プレーオフは2人だけの場合は、2人の間の順位に関係するが、3人以上の場合は、挑戦者以外は順位に反映されないので、この計算では除外してある。)
現在、A級順位戦は定員10名、総当たりで各人の9局の成績で争うので、星勘定に置き直せば、0.555が5勝4敗、0.444が4勝5敗、となる。勝率0.444の久保八段、同0.425三浦八段がA級に残留しているということは、前期のように4勝5敗の成績を残しながら順位の関係で陥落の憂き目にあった深浦康市八段のような棋士は、不運と言っていいだろう。
最近5年間で、A級から陥落し現在B級1組に在籍している棋士のA級在籍中の通算成績も分析してみた。
(5年間にA級から陥落した棋士は延べ10人だが、そのうちの期郷田九段(61期)は再昇級でA級残留(64期)を果たし、青野照市九段(62期)はその後B級2組に陥落しているので、残りの6名(2回陥落が2名)につき分析する)
◎最近のA級陥落棋士のA級順位戦通算成績
陥落 | 棋士名 | A級 | 勝 | 負 | 勝率 |
61・64期 | 森下卓九段 | 10期 | 45 | 44 | 0.506 |
62期 | 島朗八段 | 9期 | 32 | 49 | 0.395 |
63期 | 高橋道雄九段 | 9期 | 33 | 48 | 0.407 |
63・65期 | 深浦康市八段 | 2期 | 8 | 10 | 0.444 |
64期 | 鈴木大介八段 | 3期 | 12 | 15 | 0.444 |
65期 | 阿部隆八段 | 1期 | 2 | 7 | 0.222 |
現在、A級で8位にランクされる三浦八段が0.425の勝率なので、A級での通算勝率が4割に満たない2人は、今後、再昇級しても残留は厳しいだろう。高橋九段も通算勝率こそ4割に乗っているが、2回のA級再昇級時の戦績がいずれも1勝8敗であり、三度目の再昇級を果たしても残留は厳しいかもしれない。
一方、現在のA級メンバーとほとんど変わらない顔ぶれとの対戦で0.444の成績を残している深浦八段、鈴木八段はA級に残留している久保八段、三浦八段と実力的には大差はないということであり、再昇級が果たせれば、十分残留できる力は持っていると言えよう。
見方が難しいのは、森下九段だ。かつて、A級昇級初年度(第53期)にA級を制し、名人挑戦者になったこともある森下九段のA級在籍10期の通算成績は5割を超えている。しかし、勝ち星の相手を見ると、昭和の時代にA級に君臨していた自分より年配の棋士が多く、自分より若い棋士(森下九段は、谷川九段と羽生世代の中間の世代)がA級で過半数を超えた60期以降は、60期(2001年度)こそ5勝4敗で勝ち越したが、翌61期(2002年度)には2勝7敗でA級陥落。再昇級を果たした64期(2005年度)も3勝6敗に終わり、1期で再び陥落した。3勝6敗で残留できるシーズンもあれば、4勝5敗で陥落することもあるので、何とも言えないが、余裕を持って勝ち越せるレベルではなさそうだ。
今期(第66期)は、木村一基新八段、行方尚史新八段がA級順位戦に参戦するが、このメンバーを相手に勝ち越すのは容易なことではない。
一つ下のB級1組には、いつ取って代わっても実力的には遜色ない、鈴木八段や深浦八段がおり、さらに今期B級1組に昇級した20代のタイトルホルダー渡辺竜王もいる。
今期は、A級の残留争いとB級1組の昇級争いのどちらも興味深いものがある。
(参考資料等)
今回に記事の執筆に際しては、下記のサイトのデータを参考にしました。ありがとうございました。
「将棋順位戦データベース」
http://www.ne.jp/asahi/yaston/shogi/index.html
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