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2007年4月15日 (日)

名歌とは?俵万智さんと松村由利子さんが取り上げた栗木京子さんの観覧車の歌について考える

松村由利子さんの『物語のはじまり』を読んだのをきっかけに、短歌に関する本を読んでいるが、昨日書いた『短歌のよみかた』(俵万智著)、さらに『短歌を楽しむ』(栗木京子著、岩波ジュニア新書)を読んでいて、3人が共通して取り上げている歌があった。

栗木京子さんの次の歌である。

観覧車回れよ回れ想い出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)
(栗木京子『水惑星』)

栗木京子さんは1954年名古屋市生まれ。京都大学理学部卒。1984年に最初の歌集『水惑星』を出版。他に『中庭』『綺羅』 『万葉の月』などの歌集があり、2003年に出された歌集『夏のうしろ』は、第8回若山牧水賞(2003年)、第55回読売文学賞(2004年)を相次いで受賞している。
私は、松村由利子さんの第二歌集『鳥女』が第7回現代短歌新人賞を受賞した時の選者として、初めて名前を知った。
『短歌を楽しむ』は、おそらくは中高生向けの短歌の入門書として書かれたものであろう。岩波ジュニア新書の1冊として1999年に出版されている。

前置きが長くなったが、俵万智さん、松村由利子さんとも、著書の中でこの観覧車の歌を紹介している。

観覧車に乗って楽しんでいるデートの最中。なのにもう「想い出は」と考えてしまう。そこには、恋への終わりへのかすかな予感があるのかもしれない。たぶん君は、私ほどには今日のことを噛みしめてははいないだろう。それでもいい。私たちのこの日をくっきりと記憶に残すため、観覧車よ思いっきり回っておくれ・・・・・・。
「君には一日我には一生」という下の句のリズムのよさが、愛唱を誘う。また、この部分は、一つ一つのボックスがガタンガタンと回る観覧車の様子ともあわせて、感じられないだろうか。若い日の恋のひたむきさが、きゅうと詰まった一首である。
(俵万智著『短歌をよむ』1993年、207ページ)

閉ざされた狭い空間に二人きりでいられる状況というのは案外少なく、車やエレベーター、そして観覧車の中くらいである。恋する作者は、「ああ、いつまでもこのままでいられたらいいのに」と思う。しかし、ゆっくりとではあるが観覧車は回り、下りなければならない地上が近づいて来る。「回れよ回れ」の切ない気分は、そのまま恋が続いてほしいという気分とつながっている。切ないのはそれだけではない。今日のデートは、自分にとって一生忘れられない思い出となるだろうに、相手にとってはたった一日のことでしかない―。聡明な作者はそう感じとっているのだ。
片思いでなく恋が成立した関係においても、自分と相手のどちらが優位に立っているかは、何となくわかる。好きな気持ちをより多く抱いた方が「負け」なのである。この作者は自分の負けをよく知り、それはそれで仕方ないと思っているようだ。
(松村由利子著『物語のはじまり』2007年、64~65ページ)

作者である栗木さんは、この歌について、こう書いている。

私の歌を一首紹介させてもらいます。(中略)この観覧車の歌に対しても、男女の恋愛観の違いや、女性の心の広さと切なさを感じ取ってくれる人が多いのです。
遊園地で過ごす一日、今日のこの日はあなたにとって何でもない一日でしょうが、私にとっては一生の思い出になるに違いありません・・・・・・。
こう書くといかにも深刻に聞こえますが、実際には学生時代にゼミの仲間たちと遊園地で楽しく過ごしたときに、すんなりと出来てしまった一首です。
(栗木京子著『短歌を楽しむ』1999年、108~109ページ))

この歌を掲載した歌集『水惑星』が出版されたのが1984年、しかし、歌そのものは、全然古さを感じさせない。
栗木さんの作歌の際の状況が、歌われている「恋人どうしが2人だけで乗る観覧車」とは違っていたというのは、短歌が作られるプロセスの謎解きという意味で面白い。
しかし、ひとたび三十一文字(みそひともじ)の短歌となって、世に出たあとは、それに意味を与えていくのは、読み手なのだということであろう。

遊園地に観覧車があり続け、そこが恋人たちのデートの舞台であり続ける限り、そこでデートをしたことがある人にとってはもちろんのこと、観覧車でデートをしたことがなくても、それはあったかも知れない現実として、人々の心を捉える。
現在を歌う短歌として読み手の中で再生され、取り上げられる。

名歌とは、世代を超えて多くの人の感性に訴え、読まれ、語られる歌なのだろう。観覧車の歌も、そんな一首なのだと思う。

短歌をよむ (岩波新書)
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物語のはじまり―短歌でつづる日常
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コメント

初めまして。
先だって、トラックバックしていただいた「心に響く本・詩歌…」の主です。

ちょっとお邪魔しましたら、大好きな一首と、お気に入りの本3冊(松村由利子さん・俵万智さん・栗木京子さん)について書いてあり、嬉しくて、コメントを。
この一首の解説は、松村さんのが一番ステキですね。

私は、短歌を作り始めて4年半ですが、同時に「塔」という結社に入りました。
そこには、この一首で大変有名な栗木京子さんがおられ、この歌が大好きだった私は、歌をする時間ができたら、彼女のおられる結社にと、決めていたというわけです。
栗木京子さんは、今年たくさんの賞を受けられました。彼女の全歌集を持っていますので、いつかブログでも紹介したいなと思っています。

投稿: 大空の亀 | 2007年4月21日 (土) 10時48分

大空の亀さん、コメントありがとうございました。

栗木さんの観覧車の歌は、読み手がそれぞれの思いで、自らの中で、再生できる歌なので、名歌と呼ばれるに相応しい歌だと思います。

「短歌を読む」ということには、読み手に心を揺さぶるような短歌を見つけ出して、広くあまねく知らしめていくということも含まれるのではと思っています。

栗木さんのいい歌を、ぜひ、ご紹介いただければと思います。

投稿: 拓庵 | 2007年4月21日 (土) 11時16分

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こんにちは。 金太郎です。    目借時短歌エッセイ読みにけり    松村由利子さんの『物語の始まりー短歌でつづる日常』を読んだ。 大変面白かった。 「結婚生活の楽しさの一つは、夫婦がそれぞれの違いを知ることだと 思う。」とのこと。�瓦�唄供+ 「大きなる..... [続きを読む]

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