佐藤多佳子著『黄色い目の魚』を読み終わる
先日の『しゃべれどもしゃべれども』に続いて、新潮文庫の佐藤多佳子さんの『黄色い目の魚』を読んだ。
幼い時に両親が離婚し母と妹と暮らす木島悟、両親と姉と暮らしながら家族となじめない村田みのり。
悟は一度だけ父テッセイと会い、絵に埋もれて暮らす父を通じて絵を描くことを知る。みのりも、自分の家にいるよりイラストレーターの叔父の通(とおる)と一緒にいる方が好きな少女である。絵を見る眼力を持っている。
全く、別の場所で育った悟とみのりの2人は、湘南の同じ高校のクラスメートとになる。友達の嫌なところをノート落書きする木島に憤慨するみのり。それが2人の最初の会話である。そして、偶然、美術の時間に、悟がみのりのデッサンをすることになる。
自分の生き方に戸惑う2人は、うまく自分の気持ちを表現できないが、悟が絵を描きみのりが見るという形で、交流していく。
文庫本の裏表紙では、そのあたりの2人の関係を「友情でもなく恋愛でもない、名づけようのない真直ぐな思いが、二人の間に生まれて―。」と表現している。
2人の「ピュア」な心が、いろいろな出来事を経て、少しずつ近づいていく様子が、なんとももどかしいが、好ましい。
どうして、佐藤多佳子さんという作家は、こんなに壊れそうなガラス細工のような青春というものを、丹念に描くことができるのだろうか。
解説を書いている角田光代さんが次のように書いている。
叶えられないのを承知の願いだけれど、もしできるならば、私はこの本を、高校生の私に手渡してあげたい。(中略)高校生の時の私が、まさにだれかに教えてほしかったことを、だれかと話したかったことを、この小説は正しく伝え正しく聞いてくれるに違いない。
(新潮文庫『黄色い目の魚』454ページ)
自分の高校時代にこんな素晴らしい小説に出会えていたら、きっと、今よりも、もっともっと感動しただろうに、という思いは角田さんと同じである。
自分の3人の子どもたちにぜひ読んでほしいと思うし、高校生を持つ親にも読んでほしい。
このブログの佐藤多佳子さん関連の記事はこちら→アーカイブ:本屋大賞作家佐藤多佳子
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