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2007年5月26日 (土)

佐藤多佳子著『サマータイム』を読み終わる

佐藤多佳子さんの『サマータイム』(新潮文庫)を読み終わった。この作品は、1989年のMOE童話大賞を受賞した佐藤さんのデビュー作である。

サマータイム (新潮文庫)

この1冊の中に表題作の「サマータイム」「五月の道しるべ」「九月の雨」「ホワイト・ピアノ」の4つの短編が収められている。当初は、前の2作が『サマータイム』、後ろ2作が『九月の雨』のタイトルで出版され、それぞれ「四季のピアニストたち 上・下」というサブタイトルがつけられていた。

サブタイトルが示すようにこの作品では、ピアノが常に登場し、主要な登場人物はみなピアノを弾き、奏でる。
主人公といえる進、姉の佳奈、そして2人にとってそれぞれ重要な存在である広一。広一の母友子。

ある年の8月、小学5年生の進は台風が近づく中、市民プールに出かける。雨が降り出しそうな空の下、人がまばらになったプールで泳ぎ出す進。とうとう雨粒が、プールに水面を叩き始めた時、進は自分と同じように雨の中泳いでいる少年を見つける。進の方に泳いできた彼、広一は左腕がなく、右手だけで泳いでいた。これが、進と広一の最初の出会いである。
雨がひどくなりプールを追い出された2人。広一が進を自分の家に誘い、そこで進は広一が右手だけで弾くジャズの名曲「サマータイム」を聴き、その音色に魅せられる。
3日後、濡れた服の代わりに借りた広一の服を返しに行った広一の家で、進は広一の母でジャズピアニストの友子にあう。熱を出して肺炎で入院した広一の見舞いに2人で行くことになり、その途中、姉の佳奈に会い、3人で広一の病院に行くことになった。病室で佳奈と広一も出会う。

こうして、片手でピアノを弾く広一、ピアノを習っているが決して好きではない佳奈、広一の「サマータイム」を聴いてピアノを習い始める進、仕事としてピアノを弾く広一の母友子の四人のピアニスト達の物語が始まる。

メインストリーは、「サマータイム」だが、サイドストリーといえる他の3編もそれぞれに味がある。
「五月のみちしるべ」では佳奈の目から見た幼い頃の佳奈と進が語られ、「九月の雨」では引っ越して進・佳奈の2人と別れた後の広一と友子の母子が広一の目から語られる。「ホワイト・ピアノ」では、広一が引っ越して去ったあとの佳奈の思いが語られる。
その3編が春秋冬と描き分けられ、読み終わった夏の話の第1話の「サマータイム」に連なり、「サマータイム」をより深みのある物語にしていく。

思春期・青春時代のつかめそうでつかみきれない自分の気持ち、心象風景を掬い取るように描いて、読み終わったあとも余韻が残る作品である。20年近く前のデビュー時点で、これだけ繊細な物語を描いていた佐藤多佳子さんという作家の力に驚くばかりだ。
そして、これまで、佐藤作品を知る機会がなかったことを残念に思うとともに、出会うきっかけを作ってくれた『一瞬の風になれ』に感謝したい。

このブログの佐藤多佳子さん関連の記事はこちら→アーカイブ:本屋大賞作家佐藤多佳子

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コメント

TBありがとうございます。
最近、佐藤多佳子作品はお気に入りです。
残念ながら『一瞬の風になれ』は、まだ読んでいませんが、いずれそのうちに!

投稿: 景牙 | 2007年6月13日 (水) 19時20分

しばらくたちましたが私も「サマータイム」読みました!
あれほんといいですよネー

第1章が特に好きです!o(*^▽^*)o

投稿: ?さん | 2011年8月31日 (水) 18時00分

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