佐藤多佳子著『しゃべれどもしゃべれども』を読み終わる
『一瞬の風になれ』が2007年の本屋大賞を受賞したことで、書店に行くと同書以外にも佐藤多佳子さんの作品が並べられるようになった。面白そうなものを、何冊か買い込む。
そのうちの1冊が『しゃべれどもしゃべれども』(新潮文庫)である。
若いの落語家の今昔亭三つ葉が、主人公。ひょんなことから、人前で喋ることが苦手ないとこの綾丸良、黒猫とあだ名される美女十河五月、学校でいじめられているという小学生村林優、元プロ野球選手の湯河原太一の4人に落語を教える事になる。
5人が織りなす様々な悲喜こもごもの人間模様。しかし、それは哀しいこともあるが、いつもどこかさわやかで、すがすがしい。このすがすがしさこそが、佐藤多佳子という作家の持ち味なのだろう。
この作品のテーマは「自信」である。話のちょうど、真ん中あたりで、主人公の三つ葉が自信について考えるところがある。
自信って、一体何なんだろうな。
自分の能力が評価される、自分の人柄が愛される、自分の立場が誇れる--そういうことだが、それより、自分を”良し”と納得することかも知れない。”良し”の度が過ぎると、ナルシシズムに陥り、”良し”が足りないとコンプレックスにさいなまれる。だが、そんな適量に配合された人間がいるわけがなく、たいていはうぬぼれたり、いじけたり、ぎくしゃくとみっともなく日々を生きている。
(佐藤多佳子著『じゃべれどもしゃべれども』新潮文庫、220ページ)
自分を振り返っても、ナルシシズムとコンプレックスの間を行ったり来たりの繰り返しである。
そもそも、ブログに好き勝手ことを書いて、アクセスが増えたといってよろこんでいること自体、ナルシシズムそのものではないかと思うことがある。
佐藤多佳子さんの良さは、欠点や多くの弱さを持つ登場人物に対しても、いつも眼差しが優しいところだ。悪意を抱いた登場人物はいない。
この小説は、出版当時、「本の雑誌が選ぶ年間ベストテン」第1位に選ばれた作品とのこと。
TOKIOの国分太一の主演で映画化され、2007年5月26日から全国で公開される。見てみようかと思っている。
映画についてのブログはこちら
2007年6月9日:佐藤多佳子原作、映画『しゃべれどもしゃべれども』を見た
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コメント
TBありがとうございました。
こちらからも送ります。
映画も評判上々のようですね。
ご覧になりましたか?
投稿: robita | 2007年6月 1日 (金) 09時47分