第2回本屋大賞作品、恩田陸著『夜のピクニック』を読む
将棋の名人戦第6局の郷田九段の大逆転勝利で、将棋に関していろいろ書きたいことが思い浮かび、暫く将棋に関する記事が続いたが、先週、第2回本屋大賞の受賞作、恩田陸さんの『夜のピクニック』(新潮文庫)を読んだ。
この『夜のピクニック』は2005年に吉川英治文学新人賞と本屋大賞をダブル受賞している。
北高校の名物行事である年1回の鍛錬歩行祭。80kmの道のりを2時間の仮眠を挟んで夜通しひたすら歩くという行事だ。
著者恩田陸さんが卒業した茨城県立水戸第一高校の「歩く会」がモデルになっているとのこと。
高校時代最後の歩行際を迎える3年7組の甲田貴子(たかこ)と西脇融(とおる)。お互いに反目しながらも、意識してしまわざるを得ない2人。2人には、クラスメイト達の知らない秘密があった。
貴子は、この高校最後の歩行際の中で、小さな賭けをする。貴子と融の秘密を知らない周りの同級生たちは、2人が密かにお互い好意を持っているのではないかと誤解して、何とか2人を結びつけようとする。
さて、どのような結末が待っているのか…。
この話は、青春まっただ中の高校生が胸のうちに抱え言うに言えない思い友達との関係といったものがテーマになっていると思う。自分も高校生の頃、こんなこと考えていたよなと思うところが何ヵ所か出てくる。
今の高校生はうらやましい。佐藤多佳子さんの『黄色い目の魚』といい、この恩田陸さんの『夜のピクニック』といい、等身大の青春を扱ったすばらしい小説がいくつもある。私が高校生だった30年前、これだけ高校生の日常生活に入りこんだ描かれた青春小説というものはなかったのではないだろうか。
読んだ覚えがあるのは、曾野綾子さんの『太郎物語』(文庫化の際『太郎物語・高校編』と改題)ぐらいだ。しかし、どこかコミカルに描いてあって面白くはあったが、高校生が抱える悩みのようなものに正面から応えるものではなかった。
あとは、五木寛之の『青春の門・筑豊編』などが思い当たるが、青春小説と呼ぶにはちょっと違う気がするし、時代背景も違い、
自分の物語としては読めなかった。
しかし、今年、高校生になった次女に、きっと面白いからだまされたと思って読んでみたらと『黄色い目の魚』や『夜のピクニック』を勧めても、なかなか読んでくれないのは皮肉なものである。1962年の佐藤多佳子さんや、1964年生まれの恩田陸さんの書くものは、1960年生まれの私にとっては自分の物語であっても、次女にとっては、過去の時代の物語なのだろうか。もう少し、時間をかけて勧めてみようとは思っているが…。
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