上橋菜穂子著『闇の守り人』を読み終わる
昨日のブログに書いた『精霊の守り人』に続く、『闇の守り人』(上橋菜穂子著)を読み終わった。昨日も書いた通り、まだ文庫化されていないので、今回読んだのは、偕成社の軽装版である。
前作『精霊の守り人』に勝るとも劣らない出来映えで、読み始めると一気に引き込まれる。
前作『精霊の守り人』での、新ヨゴ皇国の皇子チャグムを守る旅を終えた女用心棒のバルサは、新ヨゴ皇国の北にあるカンバル王国の出身だ。
カンバル王国のナグル王の主治医だった父カルナは、王の弟ログサムが企てた兄ナグルの暗殺に心ならずも加担することになる。しかし、いずれ自分もログサムに殺されることを察知していたカルナは、自分の幼い娘バルサの命だけは助けたいと、親友でカンバル国一の武人で短槍の使い手であるジグロに娘を託す。
ジグロは、バルサを連れて逃亡の旅に出る。カンバル国から次々と送り込まれる刺客。ジグロは、自分たちの刺客として送り込まれたかつての盟友8人を倒し、バルサを育てながら旅を続けるが最後は病に倒れる。
ジグロから短槍を仕込まれたバルサは、養父ジグロが8人の仲間を殺した罪を償うため、8人の命を守るという誓いをたてて旅を続けるが、30才の時、『精霊の守り人』の事件に遭遇する。
生まれ故郷であるカンバル王国では、父カナルに兄である前王を殺させ、王位を奪い、バルサの父をを殺したログサムが亡くなり、バルサが命を狙われる理由もなくなった。前作は、バルサがカンバルに旅立つところで終わる。
カンバルに向かう際に、バルサは両国を隔てる青霧山脈の青霧峠越えをせず、25年前養父ジグロがバルサを連れて逃亡する時に通った、迷路のような洞窟を通ってカンバルに戻ろうとする。
そこで、子どもの悲鳴を聞き駆けつけるバルサ。幼い兄と妹がヒョウル「闇の守り人」に襲われていた。短槍を取り出し、子どもを助けるバルサ、ヒョウルはまるで自分に短槍を教えたジグロのような短槍使いだった。
洞窟でヒョウル「闇の守り人」したバルサは、助けた2人の子どもを連れカンバル王国に入る。そこで耳にした裏切り者ジグロの話は、真実とはかけ離れた内容だった。そして、自分が逃亡せざるをえなくなったログサムによる王位簒奪事件の背景には、さらに深い陰謀が隠されていた…。
この『闇の守り人』は、心ならずも女用心棒として生きることになり、胸中に深い恨みを抱くバルサが、自分の運命とどう向き合い、それをどう受け入れ、折り合いをつけていくのかという物語だ。作者によるあとがきでは、シリーズの中で大人の読者から最も支持されているのが、この『闇の守り人』だそうだ。(一方、子どもの人気が高いのは『精霊の守り人』とのこと)
バルサほど過酷な運命ではなくとも、我々は大なり小なり、自分ではどうしようもない定めのようなものに巻き込まれてしまうことがある。しかし、それを嘆いてばかりいてもはじまらない。
作者上橋菜穂子さんはあとがきで次のように書いている。
大人の読者が『闇の守り人』を愛する理由として、バルサの心の葛藤とその結末をあげてくださっているように、それぞれの人生の<時>のなかで、心に響くものはちがうのでしょう。
(偕成社軽装版ポッシュ『闇の守り人』369ページ)
「ファンタジーなんて…」と言わずに、大人に読んでほしい作品だ。
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