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2007年6月 4日 (月)

上橋菜穂子著『精霊の守り人』を読み終わる

『狐笛のかなた』に続き、新潮文庫から4月に発売されたばかりの上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』を読んだ。

精霊の守り人 (新潮文庫 う 18-2)

この作品はNHK-BS2でテレビアニメ化され、2007年4月から放送が開始されているということで、新潮文庫の他、書店の児童書のコーナーでも偕成社の守り人・旅人シリーズ全10作のハードカバーの単行本、2冊の軽装版などを揃えてキャンペーンが行われている。

内容はいわゆる異世界ファンタジーで、物語の舞台である新ヨゴ国を通りかかった女用心棒のバルサが、川に落ちた第二皇子チャグムを助けたところから物語は始まる。
ある理由から命を狙われているらしいチャグムを助けるため、チャグムの母である二ノ妃からチャグムを連れて逃げるように頼まれるバルサ。
バルサとチャグムの逃避行が始まるが、追っ手もすぐ後ろに迫っている。しかし、チャグムが本当に逃れなければならない相手は、追っ手でなく、もっととてつもなく恐ろしい相手だった…。

手に汗握る物語で、話の展開とともに少しずつ歴史の真実と恐るべき敵の姿が明らかになっていく。

作者の上橋菜穂子さんは「文庫版あとがき」で次のように語る。

大人の読者の中には、「なぜ児童文学として書いたのですか?」という質問をされる方が、よくいらっしゃいます。(中略)その答えは、「子どもが読んでも、大人が読んでも面白い物語が書きたい」からなのです。(中略)
ある意味、とても素朴で、古くから人々が語ってきた「語り物」の骨格を持つがゆえに、子どもでも楽しめる物語。それでいて、大人が読んだときには、大人であるがゆえの発見があって楽しめる物語-そういうものを書きたいと願い、私はいまも、その夢を追いかけています。
(新潮文庫版『精霊の守り人』344~346ページ)

作者は、単なる子ども向けの児童文学としてこの作品を書いたわけではなく、大人にも通用するレベルを意識して書いたということであり、読み応えがある。

一方、皇子チャグムにスポットを当ててみると、高貴な血筋な者が不運な境遇に見舞われながらも、さすらいの旅の中で数々の危機を乗り越えて成長していくという、昔話やファンタジーの一つの類型である「貴種流離譚にもなっている。

バルサとチャグムを軸にした、このシリーズは10冊に及ぶ。文庫化されたのは、この『精霊の守り人』1冊だけ。
第2巻にあたる『闇の守り人』は偕成社の軽装版を買ったが、この軽装版もまだ『精霊の守り人』と『闇の守り人』しか出ていない。さすがに、児童書として出されたハードカバーを買うのは、我が家の収納スペースの関係からちと辛い。
はて、どうやって残り8冊を読もうか、物語の展開とはまったく関係のないところで、頭を悩ませている。

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コメント

そうなんですよね。厚くて大きい本は置く場所に困りますよね。
私はしょうがないので、図書館から借りて読んでいる途中です。

投稿: 木っ端役人 | 2007年7月 3日 (火) 22時06分

木っ端役人さん、コメントありがとうございました。
私は、結局、軽装版で『闇の守人』を読んだところで、止まっています。なかなか、図書館に探しに行く時間を作れていません。
7月に入り『闇の守人』が新潮文庫に加わりました。このまま、文庫でシリーズ10冊の出版が進むなら、もう少し待ってもいいかなとも思っているところです。

投稿: 拓庵 | 2007年7月 3日 (火) 22時49分

私も書店に並ぶ姿を見るや「精霊の守人」に飛びついてしまいました。
弱者の歴史と強者の歴史のくだりには、考えさせられました。
それにしても、新潮文庫版は「闇の守人」までで続きがなかなか出ませんね。それほど編集に時間がかかっているのでしょうか。なんだか気になります。

投稿: 黒子 | 2007年8月19日 (日) 22時52分

黒子さん、コメントありがとうございます。
旅行中だったため、コメントの公開が遅くなってしまいました。失礼しました。

新潮文庫版の『守り人』シリーズの文庫化が遅いのは、版元の偕成社との関係もあるのではないかと思っています。
これまでの2冊の軽装版と文庫の関係を見ると、まず、偕成社が軽装版を出し、それが行き渡った頃に、新潮社が文庫を出すというスケジュールになっているように思います。

今後は、私は軽装版で読み進めることになりそうです。

投稿: 拓庵 | 2007年8月21日 (火) 13時45分

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