新潮文庫『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』についての思いこみ
しばらく前に、岩宮景子著『思春期をめぐる冒険-心理療法と村上春樹の世界』(新潮文庫)を読んだ。(その時の感想はこちら→2007年6月20日:岩宮恵子著『思春期をめぐる冒険』(新潮文庫)を読む)
この本の「はじめに」の冒頭に、今日話題にする『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』での河合隼雄氏との対談での村上春樹氏の発言が引用されている。
『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』は、最初、岩波書店から出版された。その時、単行本を買って確かに読んだのだが、何せ村上作品を1冊も読んだことがないので、対談の内容も全く覚えていなかった。今回、『思春期をめぐる冒険』を読んで、改めて読み直そうと自分の本棚の一角を占める20冊近い河合隼雄作品を中を探すが見つからない。どうも、定期的な蔵書のリストラの際、もう読まないだろうとブックオフで売ってしまったらしい。
ならば、しかたない。新潮文庫に入っているので、文庫で買って読み直せばいいと軽く考えていた。しかし、機会があるたびに書店の文庫の棚を探したが、どこの書店に行っても、新潮文庫の河合隼雄作品のところにないのである。たしかに、新潮文庫「河合隼雄の本」の1冊に上げられているだが…。よほど人気がなく、出版元でも在庫切れなのだろうか。村上春樹氏の人気を考えれば、どうも腑に落ちない。しかし、ないものは買いようがない。
昨日、会社の帰り、家の最寄り駅の老夫婦がやっている小さな書店に、そろそろ『将棋世界』8月号が出ているかもしれないと思い立ち寄った。お目当ての『将棋世界』まだ入荷していない。帰ろうと思ったが、奥の文庫のコーナーをあてもなく一巡りしてみる。村上春樹氏の作品がまとまっている一角が目に入った。村上作品の代表作は、どちらかと言えば講談社文庫に多いのだが、そこには青い背表紙の新潮文庫も何冊か置いてある。
なんと、その中に『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』があったのである。新潮社は、「河合隼雄の本」と書いていながら、村上春樹氏の作品の中の1冊として文庫化していたのだ。
たしかに、考えてみれば、2人の対談なのだから、共著と同じである。河合作品であり、村上作品でもある。しかし、自分は河合ファンであるということもあってか、当然、河合作品の1冊であると思いこみ、これまでいっさい新潮文庫の村上作品のコーナーを探したことはなかった。
「思いこみ」とはこわいものだ。もし、この本がこのまま見つからなくても、生活に困るわけではないが、むしろ、こういう自分の勝手な思いこみで、見つからないもの、見えなくなっているものが、まだまだたくさんあるのではないかという気がした。ただでさえ、思考が硬直化しがちな年代になっているのだから、よほど自分で気をなければと肝に銘じた次第である。
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