堀江敏幸著『雪沼とその周辺』、『いつか王子駅で』を読む
薦めてくれる人がいて、初めて堀江敏幸さんの作品を2冊読んだ。
堀江敏幸さんは、1964年生まれ。1999年に三島由紀夫賞、2001年に芥川賞、2003年に川端康成文学賞、2004年には谷崎潤一郎賞と名だたる文学賞を総ナメにしている。受賞歴を見る限り、純文学の実力派と言えるだろう。
タイトルにあげた2冊は、いずれも最近新潮文庫に収録された。しばらく前に『いつか王子駅で』が文庫化された時は、私自身が長く王子駅にほど近い豊島区駒込に住んでいたこともあって、よほど買って読んでみようかと思ったのだが、その時は縁がなかった。
読んでみると、なんともいえず、独特の味わいがある。私に薦めてくれた人が、「王朝文学のようだ」と言った、修飾語の多い長い文章。文体そのものが、ゆったりとしたリズムを持っている。
『雪沼とその周辺』は、山あいにある「雪沼」という町とその周辺に住む人々の日常が淡々と語られる短編集である。
何か大事件が起きるわけではない。しかし、その淡々と日常を生きる人の中に、ささやかながら「生きる意味」とでも呼ぶべきものが語られる。
『いつか王子駅で』は、おそらくは、著者の分身であろう「私」を主人公にした作品である。都電荒川線の沿線に住まいを借りた「私」が、日常生活の中で、様々な人と出会い、関わっていく様子を、これも淡々と描いている。
どちらも、読み終わると、なんとも暖かい気持ちになる。
「いつも通りの日常の生き方をしながら、それが後から振り返れば、前向きの生き方だったと言えるような生き方をしたい」という主旨のことを『いつか王子駅で』の登場人物は語る。
著者のそういう思いが、読者を暖かい気持ちにさせてくれるのではないかと思う。
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