くだけているけど、くずれていないエッセイ『ワタシは最高にツイている』(小林聡美著、幻冬舎)
映画『めがね』を見に行ったこともあって、主演女優の小林聡美さんが書いたエッセイの新刊『私は最高にツイいる』を読んでみた。すでに、何冊もエッセイを書いているらしいのだが、私にとっては、彼女の文章を読むのは初めてだ。
本の帯には、「どうにも笑えて、味わい深い。3年間に書きためた、待望のエッセイ集」とあるが、そのキャッチコピーを裏切ることのない内容だった。
女優として、主婦としての何気ない日常を書いていて、対象となった出来事じたいはさしたる大事件は一つもないのだが、1編のエッセイの中に、必ずクスリと笑わせてくれるところがあり、それでいながら同じ40代として「そうだよな~」と思わず頷いてしまうところもあり、まさしく「どうにも笑えて、味わい深い」のだ。
例えば、「私の電脳生活」と題した一編。メールやいインターネット、たまの原稿書きに使っていたノートパソコンが古くなり、「正直ちょっと飽きたのと今までのノートパソコンよりひと回り小さくて持ち歩けるやつがあってもいいかも」と思い、近くの大型家電店に足を運ぶ。
ウィンドウズXPのパソコンが並ぶ中、店員に使っているパソコンのOSを聞かれ、「ウインドウズ98です」と答え、その答えに(あまりに古さに)驚いている店員の様子をおもしろおかしく描く。そして、
なんでもその間に98SEとかMeとか2000という姿にどんどん進化していっているそうなのだ。全然知らなかった。
(『私は最高にツイている』28ページ)
また、データはフロッピーディスクに保存するのでは?との著者の問いかけに、店員が絶句する様子もおもしろい。データの保存媒体としてCD、DVD、USBメモリ等を紹介され、
なんだか浦島太郎にでもなった気分だ。しかし愕然とするというよりも、あまりにわけがわからなく、むしろおかしくて笑っちゃうかんじであった。
(『私は最高にツイている』28ページ)
そして、新しく買ったウィンドウズXPパソコンを家に持ち帰り、新型機には音楽や画像をCDやDVDにコピーできる機能に驚いたりしている。
わたしは、説明書を読みながら、いちいちそのいろいろな機能に感心したものだ。
それにしても説明書は何冊もある。その内容のほとんどは意味不明。(中略)きっと、ワタシが使っている機能の何百倍もの機能が、パソコンの中で眠っているに違いない。もたいない気もするが、必要ないから仕方がない。
(『私は最高にツイている』31ページ)
最後は、パソコンの本質を突いたコメントでキチンとオチを用意してある。
結局、いくら盛りだくさんな機能があっても、本当に必要なもの、日常使うものは限られているのだ。そして、パソコンは特別なものではなく、ある目的のために使う道具にすぎない。
この本は、ちょっと気分が冴えない時、むしゃくしゃした時など、必ず笑わせてくれるので、元気になれるる。
受け狙いもあってか、文章はくだけているが、物事の本質は見すえていて、決して基本のスタンスを崩しているわけではない。
男性・女性問わず、クスリと笑いたい人のお勧めである。
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