服部真澄著『海国記』を読み終わる
新潮文庫の2008年1月の新刊『海国記』(服部真澄著)の上下巻を読み終わった。
この1月の新刊は、昨年の暮れには書店に並んでいて『草原の椅子』(宮本輝著)の上下巻とあわせて、買い込み、先に『草原の椅子』を読み終え、今日ようやく『海国記』を読み終わった。
小説の舞台は平安時代、院政の始まった白河院の時代から始まり、鎌倉時代の承久の変が終わる頃までの時代を描いた歴史大河小説である。
ちょうど、今年の初めに読んだ『源氏物語の時代』が一条天皇とその2人の后定子と彰子を描くが、その最後は上東門院となった彰子が夫の一条天皇の後を継いだ三条天皇の崩御のあと、後一条(子)、後朱雀(子)、後冷泉(孫)、後三条(孫)ら自らの血統に連なる天皇を見守り、見送り、白河天皇(ひ孫)の時代に亡くなったことを記して締めくくられている。『海国記』は、ちょうどその後を受ける形になった。
源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820)
『海国記』の扱う院政期から承久の変までの約150年ほどの期間をつなぐ縦糸として登場するのが、平正盛、平忠盛、平清盛の平家三代。しかし、決して彼らが主役というわけでもない。話の中盤では、藤原通憲(みちのり、信西=しんぜい)も、国の仕組みを作りかえようとした重要人物として登場する。
主役は、個々の登場人物でなく、当時に日本国の富がどのように蓄えられ、国(朝廷)を支えているかという仕組みと部分である。著者の服部さんは、宋との貿易や、各地の荘園から京都に海の道を通じて財が流れていく物流の経路を誰が押さえているのか、またどこの荘園が、誰の所有であり、あるいは誰が預かり管理しているのか、その土地の故事来歴を踏まえつつ、いかに不満がでないようにその再配分を行うか、その仕組みをいかに運営できるかが、政(まつりごと)だと言っているようである。
そのため、『海国記』が『平家物語』の時代を扱うにもかかわらず、保元の乱、平治の乱や源平の戦いの記述は、ほんのわずかである。
日本史で、平安時代という時代は、この年齢になっても、時代を動かしていた大きな枠組みが何なのかさっぱりわからないというのが、実感である。荘園といものが、生産や経済の単位であろうことは、わかるのだが、その荘園の上に、どのような経済の仕組み形成され、誰が最も利益を得ていたのか。
時代の変化、移り変わりの背景には、必ず何らかの経済的な利害の対立や、経済構造の変化があると思うのだが、歴史の教科書ではそれが理解できるように、説明はされていない。
『海国記』は、時代の背景にある経済の枠組みというものをおぼろげながら映し出し、平安時代というもの理解するためのヒントをくれたように思う。
定説が、必ずしも、必ずしも説得力があるとはかぎらないのは、どこでも同じなのだろう。
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