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2008年2月11日 (月)

第1回朝日杯将棋オープンは行方八段優勝で閉幕、1回戦の郷田九段対佐藤二冠戦の時間切れ問題を知る

朝日新聞社が、毎日新聞社と並び今年(2008年)から将棋名人戦の共催に加わったことで、朝日新聞社が主催して行われていた準タイトル戦「朝日オープン選手権」が衣替えされた「朝日杯将棋オープン」。一昨日、2月9日(土)の準決勝・決勝が行われ先日A級からの降級が決まってしまった行方尚史八段が丸山忠久九段を破って、第1回優勝者となった。

持ち時間が双方40分、持ち時間がなくなったら1手1分以内。全局インターネットでリアルタイム中継、また1日2局のスケジュール設定、さらに準決勝・決勝はネット中継に加え、公開対局という運営は、これも今期(2007年度)から始まった大和証券杯ネット将棋最強戦と並び、インターネット時代を迎えた将棋界の新しい試みである。

この棋戦の注目局の観戦記事も、ネットで公開されているが、私が応援する郷田真隆九段と佐藤康光二冠(棋聖・棋王)が対戦した1回戦の観戦記事の中で、興味を引くものがあった。

郷田九段は二次予選を勝ち抜いて最終トーナメントに進出、昨年(2007年)12月23日午前の1回戦で佐藤康光二冠と対戦し敗退した。その佐藤二冠も同日午後2回戦で優勝した行方尚史八段に敗れた。
問題は、郷田九段と佐藤二冠の対戦の99手目。先手の佐藤二冠の▲2一角成の手が、時間切れだったのではないかと、郷田九段が自ら投了した後に、指摘したというものである。
観戦記には次のように記されている。

 ▲2一角成は時間ギリギリで指されたうえに駒を裏返すという動作も必要だったため、着手の際に駒が乱れてしまった。佐藤はそれを両手で直しながら「あ、あ、すみません」と慌てて謝罪した。

 記者が盤側で見た感じでは▲2一角成を着手する意思表示は明らかに時間内だったが、佐藤の手が盤から離れたときに60秒を過ぎていなかったとは断言できない。時間切れを指摘されても不思議はない状況だった。仮に駒が乱れた時点で「▲2一角成」と口に出していれば問題は無かったのかもしれないが、それを今さら言っても仕方がない。

 記録係の西村1級は切れていなかったと判断し、実際に対局が続けられた。郷田はその場で指摘するべきかを迷い、指し手は乱れ、そして敗れた。
(「第1回朝日杯将棋オープン戦 観戦記第12局本戦1回戦 ▲佐藤康光二冠 対△郷田真隆九段」後藤記者記より)

郷田九段は、前期65期のA級順位戦の久保八段戦で、逆に終了間際に久保八段から指し手を遡って、時間切れをアピールされ、連盟の中原副会長が指し手を遡ってのアピールは無効と判断し、それを聞いた久保八段は投了。郷田九段は名人挑戦者レースのトップを維持し、最終的には挑戦者となり、久保八段は5敗となってA級陥落にあとがないところに追い詰められた。結果的に久保八段はその後3連勝で残留を決めたが、もし陥落していれば、久保八段にも郷田九段にも後味の悪いものになっていただろう。

そのような背景があって、時間切れをアピールするならその場しかない。しかし、逡巡しているうちに、今度は自分の秒読みに追われ、手が乱れたという事だろう。

佐藤二冠は後藤記者に対して

「(前半部略)ギリギリで指すことが今回のようなことを起こす可能性がある、プロ棋士として良くない、恥ずべき行為だということが今回のトラブルで身をもって痛感しました。対局者、記録係など皆に迷惑をかけてしまいました。

郷田-久保の時も自分は関係のない1件かと思っていたのでかなりショックはあります。エチケット、マナーが私はかなり悪い棋士だったんですね。今頃になって気が付きました。25年染み付いていますし、対局中は無我夢中ですのですぐには治らないような気もします。ただ意識して、2度と起こさぬよう少しずつでも改善していきたいと思います」
(「第1回朝日杯将棋オープン戦 観戦記第12局本戦1回戦 ▲佐藤康光二冠 対△郷田真隆九段」後藤記者記より)

もちろん、佐藤二冠が書くように、棋士自身のモラルアップによるところが一番だとは思うが、プロの卵である奨励会生が対局の記録係をつとめ、時間切れの有無の判断をしなければならないという現状のシステムには無理があると思う。上記の観戦記でも「この世界で生きていくことを望む不安定な立場の人間に、秒読みで「9、10」と読ませることがどれだけ酷なことか。」とコメントされているが、会社組織でいえば、上司のミスを会社に入ったばかりの新人社員にその場で指摘しろといっているようなもので、それが1、2秒の範囲であれば、そのまま流して無難に済ませたいと思ってしまうのは人情だろう。

この観戦記を書いた後藤記者は、郷田九段が投了後にあえてこのことを口にしたのは、「問題提起のためだろう」と記している。

ファンとしては、プロ棋士たちには、余計な心配はせずに、対局に専念し、見るものがうなるような棋譜を残してほしいものである。

例えば、前の手が指されてから、「60秒」という秒読みの区切りがきたら自動的にブザーやチャイムが鳴るような時計を導入するなりして、記録係という人間の判断という曖昧さが入り込む余地をなくすこと対局を運営管理する将棋連盟には検討してほしいと思う。

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