大崎善生著『別れの後の静かな午後』を読み終わる
今日は大崎善生著『別れの後の静かな午後』(中公文庫)を読み終わった。これも、短編集で、6つの短編が収められている。昨日読んだ『パイロットフィシュ』を読み始める前に前半の3編を読んでいて、今日、残りの3編を読み終わった。
「サッポロの光」、「球運、北へ」、「別れの後の静かな午後」、「空っぽのバケツ」、「悲しまない時計」の6作品からなる短編集だが、私が好きなのは、短編集のタイトルにもなった「別れの後の静かな午後」とその次の「空っぽのバケツ」である。
「別れの後の静かな午後」は、ちょっとした行き違いで別れてしまったかつての恋人亜希子と僕が、数年後、思わぬ形で再会するのだが、実に辛く悲しい再会だ。それでも、そこで語られるものは、穏やかで心暖かくなる。
一方、「空っぽのバケツ」は、結婚して8年になる美久と僕。結婚して5年目ぐらいから、2人の間に隙間風が吹き始め、8年目を迎え、お互いもう離婚しかないと口には出さないまでも、考えるようになっている。そんな時、美久の父親幸三郎が亡くなる。葬儀のあと、僕は美久と結婚する時に、幸三郎から聞いた話を美久に話す。かつての父親の言葉で変化する2人の思いが、本作品のクライマックスだ。
これまで読んだ数作を通じて、大崎さんの描く恋愛は常に、自分(主人公)からの目で語られる。しかし、恋愛は双方の関係であり、相手にも自分とつきあうそれなりの理由があるのだ。
しかし、若い頃には、自分の思いはイヤというほど見えているが、自分とつきあう相手の思いはなかなか見えない。その相手の思いが見えないことによるすれ違い、行き違いのようなものが、いつもテーマになっているように思う。
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