大崎善生著『パイロットフィッシュ』を読んだ
最近続けて読んでいる大崎善生さんの小説家としてのデビュー作『パイロットフィシュ』(角川文庫)を、朝から読み始め、夜までに読み終わった。
アダルト雑誌の編集者山崎の過去と現在を織り交ぜた物語である。デビュー作ということもあって、後の短編集の洗練された感じよりも、執筆当時、人生の岐路、転機を迎えていた作者の思いが、荒削りにストレートに出ているような気がする。
その作者の思いを表していると思われるのが、主人公が、精神を病んで苦しむかつての同級生森本からかかった電話で次のように話す。
「感性の集合体だったはずの自分がいつからか記憶の集合体になってしまっている。そのことに何とも言えない居心地の悪さを感じ始める。今、自分にある感性も実は過去の感性の記憶の集合ではないかと思って、恐ろしくなることがある。」
「人間が感性の集合体から記憶の集合体に移り変わって行くとき、それがもしかしたら、俺たち四十歳くらいのときなのかなとと思うんだ。」
(『パイロットフィッシュ』75、76ページ)
感性の集合体から記憶の集合体へと変わっていくのが四十歳の頃…。この作品は、作者自らが、自分の中年期の危機(中年クライシス)と対峙する中で、生まれてきた作品なのだと思う。
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