内田樹著『ひとりでは生きられないのも芸のうち』を読み終わる
先週3日(木)から読み始めた内田樹著『ひとりでは生きられないのも芸のうち』を読み終わった。
この本の全体についての著者の考え方は読み始めた日の記事(2008年4月3日:内田樹さんが語る狙った男の口説き方-『ひとりでは生きられないのも芸のうち』から)で紹介したので、そちらも見ていただければと思う。
内田先生が語るのは、2008年の日本で語られる自由主義経済の中で自らの利益を最大にしようと行動する経済合理性で思考し行動する社会や個人ではない。
もっと、自然の摂理やなんとか生き残ろうとする人間の本能に立ち戻って考えるということである。
例えば、現在の日本の地域社会や家族での人間関係が希薄になっているのは、日本が平和であるからという。戦争や飢餓など、生命の危機の瀕した時、人間は生き延びる可能性がより高い選択をする。
家族と助け合い、限られた食料を分け合い、地域の人びとと助けあう。その方が、一人でいるよりも、生き延びる可能性が高いからである。
それは、草食動物が肉食動物から逃れ生き延びるため、群れをなすのと同じである。1匹でいれば狙われたら最後、逃げおおせることは難しいだろう。しかし、10匹で群れを作れば襲われるリスクは1/10になるし、100匹で群れをなせばリスクは1/100になる。
日本が豊かで明日を生きることに何の不安もないから、家族に依存したり頼る必要もない。そして、自立と言う名の「孤立」を選択する人が増える。ニートとなり、働かなくても親が養ってくれるから困らない。
ほかにも、いろいろと、そもそも論から考えた内田流思考がいたるところにちりばめられている。
私が、目から鱗が落ちる思いだったのは、昔の大人は子どもの前でお金の話はしなかったというくだりである。(Ⅴ共同体の作法-「子どもに触れさせてはいけないもの」)
お金は穢れたものとの意識があり、物を買って代金を支払う時は別だが、人にお金を渡す時、封筒に入れたり、紙に包んだりするのは、穢れたものを裸のまま人に渡すの失礼という意識があるからという。そして、お金を話をするのは、大人であり、子どもを穢れから守るため、子どもの前ではお金の話はしない。確かに、以前の日本人にはそんな意識があったように思う。
私の両親も決して豊かではなかったが、子どもの前で、家計が苦しいなどと漏らしたことはなかった。
それが、自分が親になった現在、子どもの前で、当たり前のようにお金の話をしている。知らず知らずに、「自由主義経済の中で自らの利益を最大にしようと行動する経済合理性」と言い換えた拝金主義に毒されているのだろう。
身の回りで語られることが、なんか変だと感じている人は、一度読んでみるといいと思う。変ではない、まともな、常識的な考えというものは何かについて、思い起こさせ、考えさせてくれる「きっかけ」がたくさん詰まっている本だ。
| 固定リンク | 0
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 西野智彦著『ドキュメント通貨失政』(岩波書店、2022年)を読み終わる(2023.02.24)
- 三宅香帆著『それを読むたび思い出す』(青土社、2022年)を読み終わる (2023.02.18)
- 北条早雲(伊勢新九郎盛時)を描く『新九郎、奔る!』(ゆうきまさみ、小学館)(2021.05.22)
- 『戦乱と政変の室町時代』(渡邊大門編、柏書房)を読み終わる(2021.05.16)
- 小野不由美著『十二国記』シリーズ (新潮文庫版)を読み終わる(2015.03.01)
コメント