河合隼雄著『河合隼雄の"こころ"』
故河合隼雄文化庁長官を追悼する雑誌の特集号は、以前紹介したが、その後、月刊『教育総合技術』という専門雑誌に2004年4月号から2006年9月号まで連載されていた記事をまとめた『河合隼雄の"こころ"』(小学館)が出版された。
『教育総合技術』という雑誌は、学校の先生向けの専門誌のようで、連載記事「子どもの心、教師のこころ」というタイトルで、先生を対象に子どもと大人、学校、社会などとのの関わりをテーマにしたものになっている。
また、この本には、河合隼雄さんが選んだ「親子で読みたい本」のリストが、児童書と絵本に分かれて載せられている。編集部によるまえがきだと、いずれ、河合さんが文化庁長官退官後に全作品につき解説を執筆してもらう予定で、とりあえずリストアップだけがされていたが、亡くなられたためリストだけが残ったというもの。河合さんは、児童書も多く読まれ、何冊も児童書について語った著作があり、解説書が実現していれば、よき児童書、絵本の手引きになっていたに違いないと思われるので残念である。
おそらくは、この本が、河合隼雄さんが書かれたものの最後になるのであろう。今年に入ってから、20代の若者が、無差別に衝動的に他人を殺傷する事件が続いていて、単に表面的な動機の分析だけではなく、社会全体に蔓延する病理のような物を考えていかなければならない時に、それにもっともふさわしい河合さんがすでにこの世にいないことは、残念である。
この本の帯には「不世出の臨床心理学者が最期の綴った"おとなのこころと子どものこころ"」とあるのだが、「不世出」という言葉がまさにその通りだなという気がした。
本当は、河合さんの書物から薫陶を受けた、我々のような後の世代の者が、河合さんの深い洞察からヒントを得て、実践し、少しでも社会を変えていかなければならないのだろうけれど、現実には、自らの子育で精一杯であり、なおさら失った河合隼雄さんの存在の大きさを感じる。
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