« 徳永英明『VOCALIST』シリーズ300万枚突破の意味を考える | トップページ | 福岡伸一著『生物と無生物のあいだ』を読み始める »

2008年4月14日 (月)

徳永英明『VOCALIST』シリーズ300万枚突破の意味を考える・その2-『VOCALIST』は現代の名歌選集

昨日の記事を書いたあと、思いついたことがあるので、忘れないうちに書き足しておきたい。

○『VOCALIST』シリーズは現代の名歌選集ではないか
今回の『VOCALIST』シリーズ3作では1970年代から2005年くらいまでの約40年間の間の女性ヴォーカル曲から約40曲(通常盤では39曲、限定盤では『喝采』が含まれる)が選び出され、徳永英明という歌手によって、歌い直され、再び世に送り出されている。昨日の記事でも「○名曲を継承し再生する」という小見出しでそのことにふれたが、これは、大伴家持が『万葉集』を、紀貫之が『古今和歌集』を、藤原定家が『新古今和歌集』という形で、当時、読まれた歌を選びまとめたということと同じことなのではないだろうかと思った。

自らの歌を詠む歌人として実績のある選者が、同時代の多くの歌人達の秀作を選び、まとめる。そこに選ばれた歌は、選ばれたことにより、『万葉集』の中の誰それの歌、『古今集』の中の誰それの歌という形で、歴史の中で記憶され、後の世に伝えられ、何度も再生される。もちろん、秀作であれば、単独でも歴史に残るものはあると思うが、そこに選ばれたことで、より歌い継がれる可能性は高くなったにちがいない。

例えば、今回の『VOCALIST』シリーズ の中でも、「あなた」(小坂明子、1973年)、「迷い道」(渡辺真知子、1977年)、「恋人よ」(五輪真弓、1980年)などの曲は、徳永英明と同世代の我々40代後半の世代には、まさにそのヒットを体験した懐かしい曲であるが、80年代以降に生まれた、今の20代の人びとは、このアルバムを通じて、曲のそのものに初めて接したということもあるのではないだろうか。
一方、私などは、1983年に社会人になって以降のヒット曲は、その時の自分の忙しさ次第で、いくら世の中でヒットしていても、あまり歌謡曲そのものを聴く機会がなく、「M」(プリンセス・プリンセス、1988年)「月のしずく」(RUI=柴咲コウ、2003年)、「ENDLES STORY」(伊藤由奈、2005年) などの曲は 『VOCALIST』シリーズで初めてその存在を知った。

何十年か後、1970年代以降の40年ほどの歌謡曲を語る際、この『VOCALIST』シリーズの40曲は、『VOCALIST』に収録された曲として、より記憶され、歌い継がれる可能性が高まったのではないだろうか。『VOCALIST』シリーズのカバーアルバムとしてのヒットは、過去の名曲を現代に再生したことに加え、さらにこれから未来に伝えていく役割を果たすのではないという気がしている。

300万枚というカバーアルバムとしての異例のヒットは、徳永英明という歌手の歌の選者としての選曲眼に多くの人が賛同したことの表れでもあるのだと思う。

| |

« 徳永英明『VOCALIST』シリーズ300万枚突破の意味を考える | トップページ | 福岡伸一著『生物と無生物のあいだ』を読み始める »

音楽」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 徳永英明『VOCALIST』シリーズ300万枚突破の意味を考える・その2-『VOCALIST』は現代の名歌選集:

« 徳永英明『VOCALIST』シリーズ300万枚突破の意味を考える | トップページ | 福岡伸一著『生物と無生物のあいだ』を読み始める »