酒井穣著『初めての課長の教科書』で語られる「読書のユニークな本質」
昨日のこのブログで酒井穣さんが書いた『初めての教科書』について紹介した。まさに、初めて課長(=管理職)になる人のために書かれた「課長学入門」とでも言うべき本で、これまで類書がないということ、まさに課長が日々現場で遭遇するであろう事に対する処方箋が、コンパクトにもれなくまとめられていて、今後、長く読まれていく本になると思われる。企業の中には、新任の課長の研修の教材にしたり、新任課長に配ったりするところも出てくると思う。
しかし、私が本書の中で、もっとも目から鱗が落ちる思いがしたのが、本書の最後に掲載されている「テレビがダメで読書がアリの本当の理由」の理由と題した読書の本質について語ったコラムである。
なぜ、テレビを見ることより、読書をする事が有用なのか?著者の酒井さんは、優れた文章が持つ「圧縮」の効果とそれを「解凍」して読み解く際の「想像力」の重要性をあげる。
「その場で五感を総動員して取得した情報を、数行の文章に圧縮する能力」これが重要なことをより多く記憶し、効率的なコミュニケーションをするために必要な能力です。(中略)動画よりも静止画、静止画よりも文章のほうが情報サイズが圧倒的に小さくなり、記憶にも運搬にもより優れたものになります。贅肉の削がれた重要情報を多く記憶する「引き出しが豊かな人物」は、変化の激しい時代にあってもたくましく生きていけるのです。そして他人が「文章に圧縮した情報を、動画として脳内で解凍し再生させる能力」を「想像力」というのではないでしょうか。(中略)
良い文章にたくさん触れることで「情報を解凍する能力」を磨き、良い文章に刺激されてブログなどで文章を書くトレーニングを積んでおけば、圧縮の技術も学ぶことができます。脳内に情報の圧縮、解凍のプログラムを組み込み、それを絶え間なくバージョンアップさせていくという作業が、読書のユニークな本質なのではないでしょうか。読書をすればするほど、脳という知識創造のプロセッサの能力は高まると筆者は信じています。(『はじめての課長の教科書』220~221ページ)
これ以上、私がくどくど説明を加える必要もないと思うが、感想めいたことを言えば、これまで本も読むつど、「この本は中味が濃い」とか「中味が薄い」という感じを持ったことが何度もあったが、それ以上に本の内容のよしあしを表現する言葉を持っていなかった。
この酒井さんが「情報の圧縮」と「解凍」という言葉を使って語った読書論は、「優れた文章」と「読書」の本質を見事に表現していると思う。
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