400mリレー日本代表を描いたノンフィクション、佐藤多佳子著『夏から夏へ』を読み始める
昨年、高校の陸上部を舞台にした青春小説『一瞬の風になれ』で本屋大賞を受賞した著者が、北京オリンピックでメダルを目指す400mリレー(4継)の日本代表を描いたノンフィクションが『夏から夏へ』(集英社)だ。
新聞に広告が載ったをみて、書店でさっそく購入した。
1走塚原直貴、2走末續慎吾、3走高平慎士、4走朝原宣治、リザーブ小島茂之という5名にスポットが当てられている。
前半の第1部は、この4人が走った2007年の世界陸上大阪大会の400mリレーの予選、決勝の描写である。スタンドで観客席として眺めた著者の視点から、そしてレース前の4人の心境、レース中の4人の思いなどが、織り交ぜられ、同じレースを違う目の幾重にも描くことで、大阪大会での4人の走りをみなかった読者にもその姿と見えてくる。
大阪大会の個人200mでは、日本のエースである2走末續慎吾がレース後脱水症状に見舞われ、リレーを走ることさえ危ぶまれていたことなど、小説にも登場しないような現実の重みがよく描かれている。
後半第2部は、世界陸上大阪大会を終え北京オリンピックに向けて再始動するメンバー一人一人のスプリンターとしてのこれまでの生き方にも迫っていくようである。徹底した資料・情報収集とインタビューで物語りを紡ぎ出して著者の手法は、ノンフィクションでより威力を発揮するのかも知れない。
とにかく、書き手の佐藤多佳子さんが、陸上競技を、400mリレーを1人の観客として、こよなく愛してくれているのが、読み手にもひしひしと伝わってくる。
かつて陸上部に在籍して0.1秒でも早く走りたいと思っていた私にとっては、それもうれしい。
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