谷口雅一著『「大化改新」隠された真相』
すこし前に読んだ本だが、NHKスペシャルのディレクターが放送内容を基に書籍化した谷口雅一著『「大化改新」隠された真相』(ダイヤモンド社)について、紹介してみる。
歴史(特に日本の歴史)に関する本は、地域・時代を問わず、何でも読むが、特に日本の古代史、飛鳥時代から奈良時代にかけては、特に大化改新についてはよくわからないことも多く、興味を持っている。
(過去の記事:『偽りの大化改新』を読んで(1)・(2)・(3))
この本は番組の放送(2007年2月)後の反響を受け、2008年6月に出版されたものだ。蘇我氏逆臣説に疑問を投げかけるもので、日本書紀編纂の際潤色を想定している。
他書にない視点の一つは、むしろ「大化改新」の主役を中大兄皇子(天智天皇)と中臣鎌足の2人に仕立てたのは、日本書紀の編纂を開始した天武天皇ではなく、それを引き継いだ天武天皇の妻の持統天皇、文武、元明、元正という天皇たちではないかという。持統天皇は天武帝の皇后であるとともに天智の娘、元明も娘、文武と元正は天智の孫にあたる。
アジアの情勢に通じていた蘇我氏は大国隋・唐を意識した外交を構想していたが、宮廷クーデターである「大化改新」後、権力を握った中大兄皇子と斉明女帝とで行った白村江の戦いは、唐・朝鮮三国の情勢を顧みない無謀な戦争であり、日本書紀の中で国家国民を疲弊させた責任を問われていないのは不自然との視点である。そこには、天智の血統の天皇たちによる潤色があるのではないかというものである。
もう一つ、面白いと思った視点は、大化改新の歴史的評価は江戸時代までは、そう大きな評価はされておらず、明治維新後、大政奉還から明治維新での諸改革に通じるものがあるとして、日本書紀に記された、逆臣蘇我氏を誅殺し天皇中心の政治の礎となる一連の諸改革の断行が「大化改新」として、学者たちにより古代史の転換点として取り上げられるようになったという点である。「「大化改新」は明治時代に「発見」された」のである。
そう思って日本の歴史の通説を見直すと、各所に明治維新政府にとって都合の良い歴史の記述に成っている部分も多いのではないかという気がする。
「任那日本府」説明にしても、当時進めていた朝鮮半島進出に類似する事例を歴史の中から潤色も施して取り上げ、当時の日本の行動を正当化しようとするものであったのであろう。(過去の関連記事:講談社選書メチエ『加耶と倭』を読む)
黒船来航以降の幕府の対応のまずさ、無能さが明治維新につながり、明治維新は歴史の必然のように語られるが、必ずしも、薩長などの倒幕側が必ずしも幕府以上に優れていたとも限らないという見解もある。
自分たちが気づかないところで、明治政府中心史観にとらわれているのかもしれないと思う。
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