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2008年10月15日 (水)

時価会計は本当に必要なのだろうか?

日本の企業会計の世界では、しばらく前に「会計ビッグバン」ということが声高に言われ、国際的な会計ルールに沿う形で、日本の会計ルールの多くが変更された。固定資産の減損会計、退職給付会計、金融商品の時価評価の徹底、等々。
その背景にあるものは、時価主義である。企業が保有する資産を全て評価日現在の市場価格で評価しようとするものである。

それ以前の日本の会計では取得原価主義が原則で、不動産や投資有価証券などの資産は購入時の価額がそのまま、貸借対照表に記録され、保有期間中は貸借対照表上に記録された価額(簿価)が変更されることはなかった。
その資産が売却される時になって初めて、取得価額と売却額の差額が、売却益や売却損として実現し、売却時の決算の内容を大きく左右した。戦後の高度経済成長の中で、成長を続けた日本企業は、保有する株式や不動産に含み益を抱え、ある程度の損失であれば、その含み益を実現させること穴埋めが可能で、一過性の損失であれば、企業の存亡に関わるようなことはなかった。

80年代までの日本企業が海外進出しその力を発揮していた時期には保有株式の「含み益」が海外から槍玉にあげられ、バブル崩壊後は今度は高値で取得した不動産の「含み損」を明確にして、企業の実態を示すことが求められた。

今回の米国での大手証券会社の危機も、時価会計の厳格化が、危機の深刻化に一役買っている。サブプライムローンを証券化した商品や更にそれらを組み合わせた複合的な証券化商品は、もともと投資家と証券会社の間で相対で販売され、広く一般に流通しているわけではない。価格も理論値はあっても、実際の売買事例は多くはなかったようである。
米国の新しい会計ルールFAS157では、時価の不明確な資産の時価評価ルールを定め、レベル1=売買事例のあるものは売買価格、レベル2=同種の商品の売買事例が参考になるものそこから類推、レベル3=まったく時価事例のないものとした。そしてレベル3の時価不明の資産の保有額を明らかにするように求めた。
米国の大手証券会社は、2007年度の第一四半期からこのルールを先行適用した結果、レベル3に分類される資産の規模が多く、その多くがサブプライム関連の証券化商品で多額の含み損を抱えているのではないかと市場参加者から見られ、株価下落の要因の一つになったというものである。

証券化商品は、もともと広く流通させることを目的に作られた運用資産ではないだけに、買い手がつかなくなれば、評価額は理論値と乖離して下落する。売れないとなれば、ますます狼狽売りを誘い、悪循環に陥る。そうなった場合の時価とは、本当にその資産の正しい価値を表しているとは言えるのだろうかと思う。
先週暴落した世界各国の株価はG7の行動計画を政治の断固たるメッセージと捉え、今週に入り今度は急騰している。昨日(2008年10月14日)の日経平均株価の上昇率は過去最高を記録したとのことだ。市場で日々取引が行われほぼ毎日値付けが行われる上場株式でさえ、これだけ乱高下する。

市場価格のない、証券化商品の時価を厳格に求めようとする事にどれだけの意味があったのだろうかと思う。
証券化商品の多くは、ものすごく単純化すると、その利払・償還のリスクを分解しハイリスク・ハイリターンの「エクイティ」、ローリスク・ローリターンの「シニア」、その中間のミドルリスク・ミドルリターンの「メザニン」に分けられる。
今回の騒動の発端であるサブプライムローンの延滞率の上昇は、確かにこれまでのサブプライムローンの行き過ぎによるものであり、いずれ是正されるべきものだが、さりとてサブプライムローン全てが延滞しているわけではない。「エクイティ」を購入した投資家は丸損かもしれないが、「シニア」部分への影響は少ないだろう。中二階の「メザニン」にどれだけ悪影響があるかであろう。
取得原価で評価されるのであれば、それは購入した投資家の投資利回りの悪化、保有資産の評価損計上、償却として徐々現れてくるものであったろう。
もともと時価などないものに無理に時価を当てはめようとして混乱を招くことと、リスクを取った投資家の資産全体の中で、徐々に損を実現化させていくことの、どちらが混乱が少なかったのかは、よくわからないところだ。

最近、私が時々読ませていただいているブログ「投資経済データリンク」では、「史上最大の作戦-世界の金融システム防衛戦」と題した2008年10月14日付の記事で「国際会計基準審議会が米国のSECに追随して時価会計の適用基準を一部緩和した」という報道を紹介している。

市場は万能ではなく、時価がおかしい時もあるということであろう。

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