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2009年3月15日 (日)

『なぜGMは転落したのか』(ロジャー・ローウエスタイン著、日本経済新聞出版社)を読む

自動車メーカーのトップ企業として、米国そして世界に君臨してきたGM(ゼネラル・モーターズ)。いまや、米国政府の支援なくしてはその存続も危ぶまれるような状態にある。
日本での報道だけ見ていると、サブプライム・ローン問題に端を発した世界金融危機が、需要の減少を招き、GMの売り上げも急減したことが、経営危機を招いているような印象を受けるが、必ずしもそれだけが原因でないことが、この本を読むとわかる。

サブタイトルが「アメリカ年金制度の罠」となっている本書が描くGM凋落の原因は、GMが米国そして世界の自動車市場を牛耳っていた1960年代までに、全米自動車労組(UAW)がストライキを武器に労使交渉で勝ち取った退職後の従業員の企業年金制度である。
GMの歴代の経営者たちは、従業員の給料という目先のコスト負担よりも、直接、財務諸表には現れない退職後の従業員の年金支給額の引き上げや制度の充実という形で、将来に負担の先送りしてきた。
GMがビッグスリーのトップ企業として米国の自動車市場を過半のシェアを持ち、市場を支配し、自由に価格の引き上げも出来た時代が未来永劫続くのであれば、将来の年金支払い負担も維持できたかも知れない。
70年代から日本車の輸出攻勢、その後の米国現地生産で、盤石だったGMの市場シェアも徐々に低下していく。そして、年金制度に手をつけなければ、企業の存続そのものが危ういとなっても、退職者の既得権を奪うことは簡単ではない。なかなか、抜本的な改革は進まないまま、時間だけが過ぎていく。
思い起こせば、10年ほど前に、日本でも会計制度の変更で、企業の退職金や退職年金の支払義務を、退職給付債務として貸借対照表に表記することが義務づけられた。そのルーツは、米国の企業の企業年金という隠れ債務が、実は業績に大きく影響することが認識され、米国で会計制度が変更されたことの日本に輸入したに過ぎなかった。

米国には日本のような国による本格的な年金制度、健康保険制度はない。米国の一流企業は、人材を確保するため、あるいは労使交渉の中で組合からに求めに応じ、年金制度や健康保険制度を拡充させてきたが、退職者数が増加しコスト負担が上昇する一方、GMに限らず世界規模での競争の中で、十分な利益を確保できている企業ばかりとは言えず、老舗企業の多くがその負担に耐えられなくなっているようだ。ある時期から年金制度を凍結してしまうという選択を行う企業もあったようだが、究極の選択肢は、倒産による年金債務の切り捨てである。本書は、米国では2008年に書かれている。本書を読む限り、GMが現在の年金制度を維持したまま存続することは無理だろう。GM経営陣により、究極の選択がなされても何の不思議もない。
未来永劫存在し続けることに何の保証も根拠もない、民間企業が退職後の従業員にまで手厚い保障を行うことの限界を、本書は語っている。

また、日本人という立場で読むと、我々が普段国際的に何かを考える時、日本で社会のインフラとして導入されている各種制度が、他国でも当然導入されていると思いがちだが、必ずしもそうではないこともあるということである。「目から鱗が落ちる」思いだ。

とはいえ、日本での国による年金制度が本当に安心して国民の老後を託せる仕組みなのかも甚だ心もとなくなっている。
個人としては、勤務している会社の企業年金が退職後の生活の支えの一つなのだが、団塊の世代の大量退職が進み、彼らが企業年金の受給者となった時には、GMが抱える問題と似たような問題を、日本で企業年金を整備している会社も抱えることになるのではないだろうか。
本書は、企業年金は払い手である会社が倒産してしまえば、露と消えるはかない存在であるものであることを我々に教えてくれる本でもある。常に、団塊の世代の少し離れて追いかけていかざるを得ない我々の世代は、働ける限り、自分の腕と才覚で自分の生活資金ぐらいは稼げるぐらいになっておかなくては、生き残っていけないのではないかと思う。「不公平だ」と文句を言いたいが、言っても現実の前には何の効果もないだろう。

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