ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)2連覇を果たした「侍ジャパン」原辰徳監督の采配を語るキーワード、「前向き」と「強気」のチーム方針、「覚悟」と「潔さ」を持って「気力」と「粘り」の「日本力」を発揮
2009年3月の日本を賑わしたのは、やはり原辰徳監督率いる「侍ジャパン」のWBC2連覇だったろう。
3年前の「王ジャパン」の第1回WBC奇跡的な優勝の後を受け、誰が監督となるのか。当初有力だった北京五輪(2008年)日本代表の星野仙一監督が五輪での惨敗を理由にバッシングされ候補から消えた中、監督選びは迷走を続けた。2連覇を果たさない限り、まマスコミから叩かれるのは目に見えている中で、あえて火中の栗を拾ったのが、巨人の原辰徳監督だった。
東海大相模の中心選手として甲子園で活躍し、東海大を経て、長島・王というビッグネームが抜けた後の巨人の4番を打ったスター選手、その後巨人の監督となり日本シリーズ制するなど着実に実績は残しているが、国民的英雄であったONと比較されては分が悪い。おまけに、率いるのは日本で活躍したのち、渡米し大リーガーとして活躍する選手も含むスター選手の軍団。かつての巨人の4番といえ、自らは大リーグの経験がない原監督にとって、それらの選手をまとめることの苦労もあったに違いない。
優勝翌日のスポーツ紙に載った手記では、「監督就任を依頼され一度は断ったが、やると決めたからには腹をくくった。一生に一度の人生。こんなチャンスはない。そう前向きにとらえた。」(2009年3月25日、スポーツ報知)と語っている。
WBC2連覇は、この腹をくくった原監督の存在なくしては、ありえなかったと思う。優勝した日に放送された優勝までのチームの足跡をまとめたTBSの特集番組や、スポーツ紙の報道、凱旋帰国後の記者会見などの原語録から侍ジャパン優勝のキーワードを探ってみたい。
<チームの方針「前向き」・「強気」>
TBSの特集では、28名の代表選手が決定した直後のチームミーティングでの原監督の挨拶が放送された。今後、チームの中でも、外に向かっても、常に「前向き」「強気」で語ることを自分も含めチームの全員に課すというものだった。スポーツ紙の手記では「すべての面でポジティブに考え、マイナス要素を話すことは一切やめよう-。それをチームの方針として定めた」(2009年3月25日、スポーツ報知)。
確かに原監督の試合の記者会見では、勝っても負けても、話していたのは次の試合以降の先を見据えた話だった。負けた試合について、敗因をくどくど分析するようなこともなく、「むしろ、この敗戦でチームの結束が強まった」という趣旨のコメントが印象に残っている。選手も同じで「悔しい」というコメントのあとは、次の試合のことだった。
準決勝米国戦で8回裏6対2の4点リードから2点取られ、6対4と迫られた場面、依然として一死三塁のピンチ。これまでの日本チームであれば、ズルズルと泥沼にはまり逆転というケースもままあった場面だが、マウンドで投げていた馬原は、これ以上の点はやらないとばかりに、あとの2人を三振とピッチャーゴロで切り抜けた。
決勝戦の9回裏も3対2とリードして、日本の切り札ダルビッシュ。2つの四球で一死一塁、二塁。次の打者を三振に討ち取って、二死一、二塁。1ストライクを取り、あとストライク2つでゲームセットというところから、タイムリーヒットを浴びる。同点に追いつかれて、なおも二死一、二塁。今度は、一打サヨナラ負けのピンチ。ここでも、相手の勢いに負けず三振に仕留め、延長に持ち込んだ。
また、準決勝・決勝とも、この2つのピンチの直後に、攻撃陣が奮起し、準決勝米国戦では3点、決勝韓国戦では2点を奪い取り、勝利をものにした。
常に、起きたことは受け入れた上で、次の場面での最善を目指す。原監督が、チームの方針として貫いてきた「前向き」「強気」「ポジティブ」な姿勢が、チーム全体に浸透し、試合の行方を左右するピンチの場面で、見事に発揮されたと思う。
<「覚悟」と「潔さ」、「気力」と「粘り」の「日本力」>
凱旋後の記者会見で、原監督はチームの戦いぶりを「気力」と「粘り」で「日本力」を見せつけたと語った。まさに、準決勝、決勝のピンチでの戦いぶりは、「気力」と「粘り」という言葉がふさわしい。そして、その「気力」と「粘り」を発揮したチームのメンバーは、「覚悟」と「潔さ」を持っていたとも語っている。
「覚悟」と「潔さ」は代表監督を引き受けた原監督自身の思いであったとも思う。監督自信が「覚悟」と「潔さ」を持って、チームのメンバーを信じて「前向き」「強気」の采配をしたことが、チーム「気力」と「粘り」をもたらし、不可能と思われたWBC2連覇を可能にしたのだろう。
何かうまくいかないことがあれば、周りの環境のせい、誰か他人のせいにしたがるのが人の性(さが)。とりわけ、今の日本では「覚悟」も「潔さ」も感じられないことが多かったように思う。
「覚悟」と「潔さ」は侍=武士の心構えにもつながるものではないだろうか。「侍ジャパン」を標榜した原監督率いる日本代表が、「覚悟」と「潔さ」の心構えを持って、常に「前向き」「強気」で現実と向かい合い、「気力」と「粘り」で優勝を成し遂げたことは、現在のうつむきがちの日本に対して、これからの生き方を示した強烈なメッセージだと思う。その姿勢すべてが「日本力(にっぽんじから)」を身を以て示していたように思う。
原辰徳監督その人自身が、一番の「侍(さむらい)」だった。日本人に、大切なものを思い出させてくれた、原監督に「ありがとう」と言いたい。
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