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2009年6月23日 (火)

米国での新たな動きを紹介し、ネット社会の現在と未来を語るハヤカワ新書juiceの第1作『クラウドソーシング』

ミステリなど海外の文学作品の翻訳が特色の早川書房が2009年5月に新書の分野に参入した。「ハヤカワ新書juice」。その記念すべき1冊目No.1がこの『クラウドソーシング』である。

クラウドソーシング―みんなのパワーが世界を動かす (ハヤカワ新書juice)

巻末にある「ハヤカワ新書juice」の創刊の意義について語った紹介文には、「まずは時代の一歩先をゆく海外作品を」との小見出しのもと、次のように書かれている。

「いまでは、情報網・流通網の発展により、海外で生まれたコンセプトやアイデアはすぐに日本の誰かによって紹介される時代になりましたが、それが生まれた背景や文脈、そこから発する空気感や微妙なニュアンスはしばしば削ぎ落とされてしまいます。早川書房では、これまでの翻訳出版のリーディングカンパニーとしての経験を生かして、ハヤカワ新書juiceでもまずは先端的な翻訳出版からスタートします。とくにネットカルチャーやビジネス、サイエンス、エコなどの分野における海外の動向をいち早くお伝えしたいと思います」

本書の『クラウドソーシング』のサブタイトルは「みんなのパワーが世界を動かす」で、まさにネットカルチャー、ネットビジネスの世界で最先端ともいえる米国で今何が起こっていて、将来にどうつながっていくのかを見定めようとするものである。

現在では、技術革新による各種のソフトウエアや機器の低価格化・普及により従来、資本力のある企業や組織でしか行えなかったことが、個人やその集団であるコミニティが行えるようになった。さらにそこにインターネットの普及が加わり、クラウド(CROWD=群衆)の力が、インターネットを通じて集約さら個々人の力は小さくても、まとまれば大きな変化が起きているというのが本書の趣旨である。

研究開発企業が、自社の研究者だけでは解決できない課題をネットを通じ、個人に問題を投げかけ、日常は別の職業についている科学に愛好家だちが、自分の空いた時間に、実験や研究を行って解決策を提示する。
バードウオッチングを趣味とする人たちが、各自が自分たちが見た鳥の目撃情報を、ネットを通じて発表し、それが集約されることで、鳥の生息分布状況が明らかになり、鳥類学者は研究に専念できる時間が増えた。
膨大な特許申請の審査作業の一部をネットを通じ、個人に公開したところ、過去の類似特許の情報が寄せられ、特許の審査業務の負担軽減につながった。
地方新聞が、インターネットの自社サイトに地元の情報を扱う記事や掲示板を、地元の主婦に取材をさせ書かせることで、地元に密着し、読み手が知りたい情報が書かれるようになり、サイトのアクセスが急増し、そのサイトが広告媒体として価値を持つようになり、またそのサイトを運営している新聞社の新聞も売り上げが伸びた。
など、米国での多くの事例が紹介され、日本の現状と比べ、やはりネット先進国に米国はその名の通り、相当先を進んでいるという印象を持った。

それは、従来の経済学の基本的な考え方を否定するものでもある。本書の冒頭のはしがきには、次のように書かれている。

「人間はかならず自分の利益を考えて行動するものだと昔からいわれるが、クラウドソーシングはそうとは限らないことを証明している。クラウドソーシングを用いたプロジェクトに参加する人びとは、その報酬がたいていスズメの涙ほどか、まったくないかのいずれかだが、金額には関係なく、労を惜しまず貢献する。これまでの経済学のレンズを通せばこういう行動は筋が通らない用に思えるが、報酬はドルやユーロに換算できるとは限らない。(中略)その動機の中には、大規模なコミニティのために何かを作りたいという欲求や、自分の得意なことをする純粋な楽しさが含まれていた。(中略)人びとは、自分の才能を養うことや、自分の知識を誰かに教えることには大きな喜びを感じる。クラウドソーシングでは、共同作業そのものが報酬になるのである」(『クラウドソーシング』25ページ)

まだ全体の半分ほどを読み終えたところだが、米国の様々な事例に比して日本の動きは遅れていると痛感している。日本では、各種ソフトウェアやハードが低価格化し普及していること、インターネットが普及し何かをやりたいクラウド(CROWD=群衆)が存在することは、おそらく米国と同様だろう。しかし、そのクラウド(CROWD=群衆)のパワーを活用する仕組みはまだまだ少ないように思う。
本書でも書かれているが、あらたな動きは痛みを伴うものでもある。既得権益者にとっては、手放しで喜べる事ばかりでもないだろう。
しかし、やがては何らかの形で日本にも影響は及んでくるだろう。その時、自分がどう関わるのか。あるいは、一歩先取りして、日本で変化を起こすためには、どうしたらよいのか考える上で、格好の参考書になる本だと思う。

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