自然の営みの偉大さを改めて教えてくれる『ハチはなぜ大量死したのか』を読み終わる
先週から読み始めた『ハチはなぜ大量死したのか』を昨日読み終わった。米国で発生したミツバチの大量死を扱ったサイエンス・ノンフィクションである。作者のローワン・ジェイコブセンは、食物や環境に関して新聞や雑誌、ウェブサイトなどに記事を書いているライターということらしい。
2006年の秋から翌年の春にかけて米国各地で起きミツバチの大量死。それまでのミツバチの総数の四分の一ほどが、巣箱に戻らず失踪したという。米国では、こにミツバチの大量失踪死は、「峰群崩壊症候群(ほうぐんほうかいしょうこうぐん)=Colony Collapse Disorder」、頭文字を連ねて「CCD」呼ばれている。
本書は、筆者が養蜂家やミツバチの研究家を取材し、その原因を解き明かそうとする過程をまとめたものである。
本書では、何が異常なのかを明確にするため、本来の健康、健全なミツバチの生態について、詳しく説明した上で、丹念に原因と思われる様々な事象に迫っていく。
米国のミツバチ(セイヨウミツバチ)の天敵であるミツバチヘギイタダニ、ミツバチの躰を蝕む各種の細菌やウィルス、乱開発による生存に適した地域の減少、工業化された農作物生産の中で使用される農薬、またその工業化された農作物生産の大量生産の一環をなす受粉のため酷使されるミツバチ、様々なものがミツバチの生活を脅かしている。
研究者も、養蜂家も「CCD=峰群崩壊症候群」の原因を特定できいるわけではない。むしろこれらの要因が複合的に重なりあったことで、ある限界を超え、精密機械のようなミツバチの生態に狂いが生じ、大量の働きバチが、帰巣途中に息絶えたというのが実態のようだ。
本書は、ミツバチの危機を語ることで、我々を取り巻く自然環境に大きな危機が忍び寄っていることに警鐘をならすものである。ミツバチが働くことができなくなれば、ミツバチに受粉を頼る多くの作物も実らなくなる。
自然は、自ら復元力を持っているが、人間が経済的合理性のみで、それに手を加えたことで、生態系の弱い部分の連環が途切れようとしているのではないか。このミツバチの大量死も、自然の復元力のなせる技なのか、すでに人為的な力があまりにも加わりすぎて、復元不可能なところまで来てしまったのか、結末がわかるのはこれからというところだろう。
本書の解説を『生物と無生物のあいだ』や『できそこないの男たち』などで話題の青山学院大学の福岡伸一教授が書いている。彼が専門とする「狂牛病」と比較しながら、CCDを語っている。
本書によれば、ヨーロッパでは、「CCD」を「狂蜂病」と呼んでいるという。牛も蜂も狂わせてしまった自然の摂理を無視した工業的な農業は、もうとっくの昔に行き詰まっていたということだろう。
それは、私には、米国の低所得者向けの住宅ローンであるサブプライムローンを証券化した資産運用商品の組成、販売、購入に狂奔した現代の資本主義経済と重なって見える。
「デファクトスタンダード (de facto standard)=事実上の(世界)標準 」という名のもtに押しつけられてきた「アメリカンスタンダード」に日本がなびく時代は終わったのだと思う。
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