競技かるたを題材にした青春マンガ『ちはやふる』(末次由紀著)1巻~5巻を読了
歌人の松村由利子さんのブログの8月7日の記事で紹介されていた競技かるたを題材にしたマンガ『ちはやふる』が面白そうだったので、現在刊行されている5巻までの5冊を記事を読んだ昨日(8月8日)、すぐにアマゾンで注文したら、なんと今日(8月9日)の昼過ぎには我が家に届いた。(さすが、アマゾンである)
さっそく、1巻から読み出し、5巻まであっという間に読み終わってしまった。東京の小学校6年生の綾瀬千早(ちはや)が、同じクラスの転校生綿谷新(あらた)から、百人一首で行う競技かるたの楽しさを教わるところから物語は始まる。
それまで、ミスコンテストで上位入賞する美人の姉千歳だけが自慢だった千早は、「お姉ちゃんがいつか日本一になるのがあたしの夢なんだ!」と新に語るが、新から「ほんなのは、夢とはいわんとよ。自分のことでないと夢にしたらあかん」と一蹴され、彼が、競技かるたで日本一を目指していることを聞く。そこに千早にほのかに思いを寄せている(と思われる)クラス一の秀才真島太一が絡み、物語は進む。3人で競技かるたを始め、かるたのおもしろさに目覚めた千早は3人でずっとかるたをやりたいと願うが、超難関の私立中学に合格した太一はかるたをやめると言い、新は祖父の介護のため故郷福井に戻ることになって、千早は「一人になるんならかるたなんか楽しくない」と、3人で出場するはずだったかるた大会に出ないと言い出す。新と太一の気遣いで、大会会場に千早が姿を見せたところで、1巻が終わる。
その後、2巻では、高校生となった千早が、かるた部を作ろうと、仲間集めに奔走し、太一と再会、さらに太一を含め5人の個性あるメンバーと都大会を目指すところなどは、スポーツマンガの趣である。
読んでいて、先月文庫化された、高校の陸上部での400mリレーに青春を賭ける物語、佐藤多佳子著の『一瞬の風になれ』を思い出した。
『一瞬の風になれ』では、主人公新二はサッカー少年だが、Jリーグからスカウトされる兄の前には、才能の差は明らか。両親も兄の活躍に一喜一憂する。そこ新二を高校で、陸上部に誘ったのが、幼なじみの連(れん)である。物語は、個性的な先生、先輩、後輩、他校のライバル選手などの中で、新二と連がスプリンターとして、成長していく。
『ちはやふる』でも千早の両親は、姉の千歳中心の生活で、千早はおまけのような存在。そこに「新」という触媒のような存在が登場し、「千早」の人生がすこしずつ変わっていく。
『ちはやふる』4・5巻では、これから千早の目標となりライバルとなるであろう高校生クィーン若宮詩暢が登場、千早との初対戦も見られる。故郷に戻った後、一度は、かるたから離れた新がどのような形でかるたの世界に復帰するのかも、気になるところ。
さらに、高校生になり姉をも上回る長身の美女となった千早と多感な年頃の太一や新がどう絡んでいくのかという恋愛マンガ的な展開もありそうである。
まだまだ、読者を引きつけるストーリー展開になりそうで楽しみである。
この『ちはやふる』は、2009年3月に第2回マンガ大賞に選ばれた作品である。授賞式の様子を伝える「コミックナタリー」というウェブサイトの記事によれば、作者(末次由紀氏)は出席を辞退し、代理として講談社の担当編集者坪田絵美氏がトロフィーを受け取ったという。さらに、記事は次のように伝えている。
坪田氏自身がA級のかるた競技者で、大学2年生のときに全国2位の成績を残していること、講談社の面接試験では「かるたマンガを作りたい」と回答して入社したことを明かした。
また、かるたマンガのアイデアを持ちかけられた末次は、すぐさま単語帳を用意して1週間後には百人一首を暗記しており、1カ月後には畳敷きの部屋を借りてかるたを実践していたという。坪田氏いわく「いまは相当取れるんじゃないかな」。
末次の取材熱心さにも触れ、連載当初は毎週のようにかるた大会に出かけたこと、昨年の夏には近江神宮での全国高校かるた選手権を取材し、名人戦・クイーン戦もすでに取材済みであることを明かした。現場での末次は、多彩なアングルで写真を撮りたいと思うあまり、会場内のあちこちで立ったりしゃがんだり、やや浮き気味なほどの熱意と愛着だという。
記者から作者の授賞式欠席について質問されると、末次の言葉として「過去に犯した間違いというものがあり、自分はまだこういう場に出て行けるような人間ではない。一生懸命マンガを描いていくことでしか恩返しはできない」という考えを伝えた。タブー視されるかと思われた過去のトレース事件に自ら触れた真摯な姿勢に、会場からは感嘆の声が漏れた。
(コミックナタリー:2009年3月24日記事:マンガ大賞2009発表!大賞は末次「ちはやふる」)
ここで触れられている過去のトレース事件とは、2005年10月に末次氏の作品『エデンの花』などで、井上雄彦氏の『スラムダンク』『リアル』などから、描写を盗用したのではないかとネット等で読者からの指摘があり、本人もその事実を求め、当時の連載は中止、1992年のデビュー以来の既刊の全作品が回収、絶版とされた事件である。以来、漫画家活動を休止していたが、2007年に活動を再開。いくつかの短編を発表後、『ちはやふる』は本格的な連載作品への復帰第1号であった。
「ちはやふる」第1巻のカバーには
「ちはやふる」は連載作品です。連載でまんがを描けることがどれくらい楽しくて幸せなことか、文章ではうまく伝えられそうにありません。まんがで伝わることを願っています。さあ、スタートです。
この作品から伝わってくる何とも表現しがたい情熱のようなものは、競技かるたのすばらしさを伝えたいという編集者の熱い思いと、過去の過ちを償う連載復活のチャンスを何としても活かしたいという作者の思いが結実した作品なのであろう。
その思いが、「まんが大賞」の選者に伝わった結果の大賞受賞だったのだろう。
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