上橋菜穂子が語る「プロフェッショナルの魅力」(文庫版『神の守り人 下-帰還編-』あとがきから)
夏休みシーズンを狙ってか、しばらく出版されていなかった新潮文庫版の上橋菜穂子「守り人&旅人シリーズ」の第5作・第6作にあたる『神の守り人 上-来訪編-』と『神の守り人 下-帰還編-』が、新潮文庫の2009年8月の新作のラインナップに加わった。
結果的に10作の及ぶ大河物語となった「守り人&旅人シリーズ」の折り返しとなる『神の守り人』上下巻は、主要な登場人物である女用心棒のバルサや皇太子チャグムが暮らす「新ヨゴ皇国」に隣接し、今後の物語の展開の中でも大きな役割を果たす「ロタ王国」が舞台である。ここでは、あらすじを述べることが目的ではないので、そちらに関心のある方は、私が昨年(2008年)2月に、偕成社の軽装版『神の守り人』上下巻を読んだ時に書いた記事を参照いただければと思う。(2008年2月14日:上橋菜穂子著『神の守り人(上)来訪編』、『神の守り人(下)期帰還編』を読み終わる)
ここで紹介したいのは、今回の文庫用に書かれた著者上橋菜穂子さんの「文庫版あとがき」である。「プロフェッショナルの魅力」と題されたあとがきは次のようなものである。
著者は自らが作り上げた「守り人」シリーズの主人公バルサを心底好きだとと語り、その魅力の核は、彼女がプロフェッショナルであることと続く。そして、『精霊の守り人』、『獣の奏者』が相次いでアニメ化されたことで、著者は様々な分野のプロフェッショナルと仕事をする機会を得たとし、上橋流プロフェッショナル論が開陳される。
プロになるということは、「他者から頼られるようになる」ということを意味します。この人に任せておけば大丈夫、と全幅の信頼を寄せられ、それに応えて仕事を成し遂げねければならない。
全幅の信頼を受けるというのは、恐ろしいことです。
完全な人間などいませんし、プロでも失敗することはあるでしょう。それに、物事には不測の事態はつきものですから、知識や能力に加えて、どんな事態にも対応できる柔軟性が必要で、さらには仕事の総体という「構造物」の屋台骨を支える覚悟がなければ務まりません。
そういう修羅場をいく度も踏んでいくうちに、責任を負うのを当然のこととして、どんな状況になっても立っていいられるようになっていくのではないでしょうか。そうやって仕事に磨かれ、自分に出来ることと出来ないことを悟るようになった人は、甘い幻想に逃げることをせずに、淡々と、自分が出来ることを成し遂げていけるのではないかと思うのです。
プロであるという自意識が過剰になり、己の物差しを過信してしまうとかえって視野が狭くなってしまうことがありますが、多くの経験をし、「過信の怖さ」を骨身に沁みて知っている人には静かな謙虚さがあって、私はそういう人に強い魅力を感じるのです(新潮文庫版『神の守り人 下 -帰還編-』319~320ページ)
著者の上橋さん自身、物語作りの プロフェッショナルだと思うが、プロフェッショナルが見たプロフェッショナルの姿といえよう。
このようなプロフェッショナルに一歩でも近づきたいものである。
このような「あとがき」は、やはり軽装版には書かれないだろう。結局、軽装版と文庫版の2種類の「守り人&旅人シリーズ」を揃えることになりそうだ。
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