著者橋本治が『双調平家物語』のダイジェストでスピンオフと語る『日本の女帝の物語』(集英社新書)を読み終わる
作家の橋本治は、『窯変源氏物語』(1991年~93年)、『双調平家物語』(1998年~2007年)と日本の古典を題材にした長編小説を書いている。『双調平家物語』は2008年に第62回毎日出版文化賞(文学・芸術部門)を受賞している。
日本の女帝の物語―あまりにも現代的な古代の六人の女帝達 (集英社新書 506B)
『双調平家物語』は、平家物語と銘打つものの、飛鳥の時代から説き起こす。いわば、日本の飛鳥、奈良、平安の時代を俯瞰する物語になっている。本書『日本の女帝の物語』は、著者によるあとがき「おわりに」によれば、
「この本は、私の「長い長い小説」である『双調平家物語』の副産物です。ただの『平家物語』の上に「双調」の二文字がくっついたがために、「平家の物語の前段」がやたら長くなったのですが、長くなった「前段」の中核をなすのが、ここに書いた「女帝の時代」の物語です」(『日本の女帝の物語』214ページ)
「私にしてみれば、日本の古代というのは、「女帝の時代」があり、「摂関政治の后の時代」となり、「男の欲望全開の院政の時代」となって、そして「争乱の時代」が訪れるという、三段あるいは四段構えになっているのですが、「平家の壇の浦で滅亡するまでの平家の物語」ということになると、このすべてが一まとめになって、ひたすら「長い長い物語」にしかなりません。それで、こういう『日本の女帝の物語』を書いたのです。」(『日本の女帝の物語』214~215ページ)
私は、日本の歴史の中でも、飛鳥・奈良の時代には興味があって、黒岩重吾の小説(『北風に起つー継体戦争と蘇我稲目』、『磐舟の光芒』、『中大兄皇子伝』、『弓削道鏡』など)から始まって、学者(主に遠山美都男氏)の書いた新書(『大化改新』、『壬申の乱』、『白村江』など)、池田理代子や里中満智子(『天上の虹』、『長屋王残照記』、『女帝の手記-孝謙・称徳天皇物語』など)やのコミックなどこの時代を題材にしたものを読んできた。
飛鳥、奈良時代は、推古、皇極・斉明、元明、元正、孝謙・称徳という五人七代の女帝の存在と、一方、皇位継承に関わる血で血を洗うような多くの陰謀やクーデタが特徴なのだが、女帝を生み出す時代の行動原理について納得いく解釈をしてくれているものは、少なかった。
飛鳥から平安の時代を、『日本書紀』や『続日本紀』など当時の書物を読み込み、10年の長きにわたって『双調平家物語』として書き続け、作者なりになぜこの時代に多くの女帝が生まれたのかについての謎解きをしてみせたのが、本書といえる。そこには、天皇になるにふさわしい血統や人材に対する時代の考え方、同じく、天皇の后になるにふさわしい血統や人材に対する時代の考え方、があり、それが少しずつ変化していく。
また、その天皇家の周辺で、朝廷の重鎮・官僚として天皇を支える存在である有力豪族や貴族たち、大伴氏から物部氏、蘇我氏から藤原氏へ続く彼らの立ち位置の変化なども、変わっていく。
それを「『双調平家物語』のダイジェストでスピンオフ」(『日本の女帝の物語』「終わりに」より)として語ったのが本書である。
女帝の多くは、自らの血を引く子や孫を皇位に就かせるべく、他の有力な皇位継承者の即位を避けるため中継ぎの意味で即位したケースが中心であるが、しかし単なる飾りでも傀儡でもなく、多くのことを自ら行っている。また彼女たちが皇位に就いたことで、皇位継承が可能な血統・人材の位置づけが変わってしまう。
私の貧しい要約力では、とてもうまくまとめきれないので、興味ある方は、本書を読んでほしいとしか書けないが、何かいままで見えていなかった、飛鳥から平安の時代の天皇や摂関クラスの人びとの行動原理が、霧のむこうに少し垣間見えた気がする。
おそらく、もっとハッキリみようとすれば、『双調平家物語』15巻を読破する必要があるのだと思う。現在、5巻まで文庫化されているので、自分の日本古代の歴史観をまとめ、一本筋を通すためにも、一度読んでみようと思っている。
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